ちょっと待った!リスティング広告、安易な運用が収益悪化招く

2018.09.03 08:00

旅行業界からはリスティング広告への依存に警戒感が出始めた
(C)iStock.com/izusek

インターネット広告は、いまや販売の命運を左右する最重要手段となり、日本全体で1兆円を超える広告費が投じられている。2桁成長を続けるインターネット広告費の中でも、とりわけリスティング広告の増加が目立つ。

 コトやモノを販売する上で、インターネット上での情報発信は欠かせない。伝統的な情報媒体であるテレビや紙媒体等のマスメディアと比べて圧倒的に安価で手軽に情報発信できるインターネットは販売のありようを根底から覆しつつある。

 一方で情報媒体としての価値が上昇するのに合わせ、インターネット広告の存在感も拡大し、そこに投じられる広告費も膨大なものになってきている。インターネットそのものが安価で手軽に情報発信できる媒体であることに変わりはないものの、インターネット上で一定以上の存在感を持つには広告が欠かせなくなり、競争原理が働き広告コストも上昇カーブを描いている。

 なかでもインターネットの双方向性を生かした運用型広告が増大する傾向にあり、一方的に情報を発信する純広告、枠買い広告に取って替わろうとしている。その運用型広告の中心になっているのがリスティング広告だ。

 電通が毎年発表している「日本の広告費」によると、17年のインターネット広告費(制作費含む)は前年より15.2%増えて1兆5094億円となった。日本の総広告費の伸びが1.6%だから、その伸び率の高さは明らかだ。しかもインターネット広告費の前年伸び率を見ると、14年12.1%増、15年10.2%増、16年13.0%増、17年15.2%増と4年連続の2桁成長。全体に占める割合も23.6%と前年から2.8ポイント上昇した。

 また、制作費を除いたインターネット広告媒体費は前年比17.6%増の1兆2206億円で、初めて1兆円の大台を超えた16年から、さらに拡大している。このインターネット広告媒体費の中でも、運用型広告費の増加傾向が顕著だ。純広告に代表される、いわゆる枠買い、予約型とは対照的に、1クリック当たりいくらという形で入札を行い情報発信するのが運用型広告だ。

 インターネット広告費に占める運用型広告費の割合は、「日本の広告費」によると17年は77%と8割近くを占めている。前年からの伸び率も27.3%でインターネット広告媒体費全体の伸び率をはるかに上回る。実際の金額も9400億円と1兆円に迫る勢いだ。

 運用型の代表的なものがリスティング広告とディスプレイ広告で、インターネット広告の代表的存在となっている。リスティング広告とは、検索連動型広告のことで、具体的にはグーグルやヤフーの検索結果画面の上部に表示されるテキスト広告を指す。一方のディスプレイ広告はサイトやアプリ上に表示する画像や動画、テキストによる広告で、運用型と純広告型がある。

 インターネット広告も以前はポータルサイトにある、あらかじめ決められた広告枠を買い取る純広告型が主流だったが、テクノロジーの進化を背景に運用型広告が普及した。インターネット広告を取引方法と広告手法を掛け合わせて分類すると、運用型リスティング広告は4831億円で構成比が39.6%と最も規模が大きく、次いで運用型ディスプレイ広告が3594億円で29.4%となっている。

 つまり増大を続けるインターネット広告において今や完全な主流になっているのが運用型広告であり、その中核を成しているのがリスティング広告ということになる。

 広告を出稿する立場から見たリスティング広告のメリットは、消費者が自ら検索したキーワードに合わせて広告を表示できるため、すでに顕在化したニーズを持った消費者に訴求できることだ。一方でデメリットは、入札方式で広告金額が決まるため、同じキーワードで広告を出したい競合者が多数いると広告費が高騰しがちな点だ。

エイビーロードのように

 「日本の広告費」によると、インターネット広告媒体費をデバイス別にみると、モバイル広告が8317億円で構成比68.1%とモバイル中心にシフトしつつある。さらにデバイス別・広告種別にみると、モバイルのディスプレイ広告が最も大きく3526億円で構成比28.9%。次いでモバイルのリスティング広告が3151億円で25.8%を占めている。

 インターネット広告費の将来動向についても「日本の広告費」で触れられており、18年はインターネット広告媒体費が17年より17.9%伸びて総額1兆4397億円に達すると予測している。こうした予測を踏まえると、ますます重みを増すインターネット広告の中で、消費者のモバイル端末に表示されるリスティング広告を巡る競争は一層の激化が予想され、広告費の高騰がさらに進行するということも考えらえる。

 実際、旅行業界ではリスティング広告依存についての警戒感が出ている。すでに海外旅行に関するリスティング広告の料金が数年で2倍に上昇したキーワードもある。問題は広告料金が上がったからといって、リスティング広告をすぐに止めることが難しい点だ。広告を止めた場合の売り上げ急減を懸念して、止めるに止められない状況に追い込まれるからだ。旅行業界からは「短期的にシェアを奪うための戦略的な広告展開ならまだしも、どうやって利益を確保しようとしているのか疑問を感じるリスティング広告の展開も見られる」との声も上がる。

 かつて2000年前後に、海外旅行雑誌「エイビーロード」への広告展開を武器に業績を拡大してきた旅行会社が、激化する価格競争と止められない広告出費の板挟みで収益を悪化させていった姿が記憶に蘇るのは杞憂だろうか。

【続きは週刊トラベルジャーナル18年9月3日号で】