変動型運賃の波 地上交通への広がりと影響

2021.05.17 00:00

(C)iStock.com/JuliaGaran

移動の行動変容がコロナ禍で加速するなか、ダイナミックプライシング(変動型運賃)への注目度が高まっている。ホテルや航空業界が先行するが、ここへきて高速バスに普及し始め、鉄道各社も時間帯別運賃の検討を開始した。この先、地上交通にどう広がり、旅行にどのような影響を及ぼすのか。

 ダイナミックプライシングの仕組みはすでにホテル業界や航空業界では導入が進み、収益性の確保と向上に貢献している。一方でバスや鉄道はより公共性の高い事業であり、人々の日常生活と密接な関係にある。それだけに従来の運賃体系とは異なるダイナミックプライシングへのスピーディーな移行は困難だ。それでも徐々に地上交通にも導入や検討が始まっている。

 京王電鉄バスは同社が運営する座席管理システム「SRS」に価格変動機能を新たに装備し、昨年12月から高速バスを運行する事業者に新機能の提供を開始した。両備ホールディングスの両備バスカンパニーも昨年12月から両備高速バス各路線で、乗車便や予約タイミングによって随時運賃が変動するダイナミックプライシングを導入した。特にSRSは予約・発券のほか精算や利用分析機能を持つ基幹システムとして全国45社が利用しており、各社はダイナミックプライシングを活用した座席販売が可能になる。バス利用者には「ハイウェイバスドットコム」のサイト名で知られ高速バス市場に大きな影響力を持つだけに、ダイナミックプライシングの流れを大きく加速しそうだ。

 鉄道会社にも動きが見られる。昨年7月、JR東日本とJR西日本はそれぞれ、時間帯別運賃の導入に向けた検討を始めることを明らかにした。背景にはテレワークの普及によって最大の顧客である通勤利用客が減少傾向にあり、長期的な安定経営を目指すために運賃改革が不可避となっている点が挙げられる。また混雑のピークを緩和するためにも、時間帯で運賃を変えるダイナミックプライシングの発想が有効と考えられるからだ。

 JR西日本は時間帯別運賃について、他社とも意見交換しつつ検討を進めており、時間帯別だけでなくお盆や年末年始など多客期と閑散期の料金についても研究している。しかし、運賃は上限価格制により上限の変更には認可が必要となるため、同社は現状の仕組みでは運賃の上げ下げは簡単ではないと見ている。鉄道におけるダイナミックプライシングを実現していくには、ここで指摘された運賃認可の課題だけでなく、複数の鉄道事業者が関係する相互直通運転は乗車時間帯が異なり、時間差料金への対応が難しいといった課題もあり、実現は簡単ではない。

 そのため、現在の環境で可能な施策として、運賃とは異なるが、通勤ピーク時間帯を避けた利用客にポイント特典を付与する取り組みが試されている。JR西日本は今年4月から来年3月までの期間限定で、交通系ICカード「ICOCA(イコカ)」の定期券利用者への時差通勤ポイントを実施。通勤用のICOCA定期券で入場し、大阪都心の駅で通勤ピーク後の時間帯に出場すれば、1回の利用ごとに20ポイントを提供する。昨年12月の発表会見で長谷川一明代表取締役社長は「このテストマーケティングで時間帯別運賃の導入やラッシュ時間帯の列車ダイヤを見直すことができれば、コストも削減できると考えている」と狙いを説明した。

 またJR東日本も3月から来年3月までの期間限定で、Suica(スイカ)定期券の利用客を対象に、混雑時間帯を避けた乗車に対してポイントを特典として提供する「オフピークポイントサービス」を実施している。同社は「時間帯別運賃とは関係なく、あくまでも多様な通勤スタイルを応援する施策の1つ」(広報部)とするが、今後、時間帯別運賃導入の検討材料になるはずだ。

社会的期待に高まり

 公共交通機関のダイナミックプライシング導入を求める声は経済界からも上がっている。東京商工会議所は2月、交通運輸部会と首都圏問題委員会で「新型コロナウイルス感染拡大の影響を踏まえた公共交通に係る要望」をまとめ、国土交通省に提出した。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年5月10・17日号で】

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