ダイナミックプライス 国内商品販売の現場の変化は?

2020.05.18 00:00

航空運賃が「時価」になったとき、旅行商品販売は…
(C)iStock.com/ThomasVogel

4月から国内募集型企画旅行に価格変動型運賃(ダイナミックプライス)の導入が始まった。旅行会社は商品の造成から販売まで、新運賃仕様の対応を余儀なくされている。ツアー造成の肝といわれた航空仕入れが廃止され、国内旅行は新たな競争のステージに突入した。

 国内航空路線の大部分を占める全日空(NH)と日本航空(JL)が4月から、個人向けの新たな包括旅行割引運賃(新IIT)を導入した。移行期間として21年度下期商品までは、旧IITも募集型企画旅行用の運賃として残されるが、22年度以降は新IITに統一される見通しだ。

 新IITの最大の特徴は、空席に連動して運賃額も日々刻々と変化するダイナミックプライスである点だ。また、早期に予約が可能になる一方で、取消手数料も早期に課されることや、発券期限が短いことなど、旧IITとは全く異なる運賃設計となっている。

 新IITは日々変動するため、あらかじめ座席を仕入れることができない。すでに航空会社からの提供が大幅に縮小していた座席数の割り当て(アロットメント)にもなじまず、販売実績や見通しを加味して半期ごとに値決めをする仕入れ交渉は撤廃された。つまり、公示運賃とほぼ同様の運賃を誰もが平等に利用する形となり、スケールメリットが効いた従来とは環境ががらりと変わった。

 商品造成における最重要ポイントである販売価格をあらかじめ決定しておくことができなくなったことによる販売方法への影響は計り知れない。旧IITを利用したパッケージツアーのように固定の運賃を元に旅行代金を設定し、募集広告と取引条件説明書を兼ねた旅行パンフレットを使い、旅行代金の表示義務を果たしたうえで集客することは実質的に不可能だ。

 このため店頭での対面販売の場合、まずは明確な旅行代金を表示せず、目安額だけを表示した告知広告で大まかな金額と旅行内容を紹介することが第1段階となる。目安額は、想定される最低額から最高額までの幅を持って表示する。JATA(日本旅行業協会)は目安額について、「最低額は航空会社から提示された新IITの下限額に、地上費の一番安価な価額と必要経費を加算した額」としており、「最高額は航空会社から提示された新IITの上限額に、地上費の一番高価な価額と必要経費を加算した額」という基本的な考え方を示している。

 そうして旅行への興味を喚起したうえで、紹介した旅行に関心を示した客からの求めに応じて都度、最新運賃を反映した旅行代金を表示した取引条件説明書面を提示する。2段階の手間をかけて販売を進めなければならないわけだ。その時点のリアルタイムの旅行代金を自動的に明示できるオンライン販売の方が、ダイナミックプライスに基づくパッケージツアー販売との相性が良いことは誰の目にも明らかだ。

 取消料も新たな課題だ。新IITはNHが搭乗355日前から、JLも330日前からの予約が可能だが、発券期限も予約日を含む3日以内と早期化している。これに伴い取消料が発生するタイミングも旧IITとは比べ物にならないほど早まった。このため多くの旅行会社が用いている標準旅行業約款の取消料規定では対応できない。同約款では、取消料は旅行開始20日前からでなければ発生せず、このまま新IITを使ったパッケージツアーに適用してしまえば、21日以前にキャンセルがあった場合、旅行会社は航空会社に取消料を支払わねばならないうえ、旅行者には旅行代金を返金しなければならなくなる。

 このためJATAと全国旅行業協会(ANTA)が中心となり、新IITに対応できる個別認可約款、通称「国内募集型IIT約款」の枠組みをとりまとめた。同約款では、旅行契約を締結した時点から取消料が発生する可能性があることを明示するのが特徴となっている。

【続きは週刊トラベルジャーナル20年5月18日号で】

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