コロナ禍後のニューノーマル 変わる価値観と旅の提案

2020.06.29 00:00

コロナ禍を経て生活者の価値観はどう変化したのか
(C)iStock.com/Pogonici

新型コロナウイルスの流行を経て、人々の旅の目的や訪問先の選択基準が変化しはじめている。コロナ禍の前と後では価値観や旅のスタイルが一変する可能性もある。観光業界は変化を的確に捉えながら、ツーリズムのニューノーマルを形づくっていかねばならない。

 世界観光機関(UNWTO)は5月に発表したレポートの中で、コロナ禍により世界の観光産業が前例のない危機に見舞われているとしたうえで、国際旅行需要の回復とダメージに関し3つのシナリオを示した。7月上旬に国境の段階的な開放と旅行制限の緩和が行われることを前提とする第1シナリオの場合、今年は前年比58%減。それが9月上旬までずれ込んだ第2シナリオの場合、ダメージは70%減まで拡大する。そして12月上旬にずれ込む第3シナリオでは78%減になるという。ただし、いずれのシナリオが現実になるにしても、本格回復は21年以降となり、国内旅行が国際旅行より先に回復すると見通した。

 果たして旅行需要の牽引役は誰か。UNWTOは過去の危機的状況後の需要回復過程を参考に、ビジネス旅行に先んじて観光旅行が回復し、とりわけVFR(友人・親族訪問)が牽引役になる可能性が高いと指摘している。

 メーデー休暇(5月1~5日)の国内旅行者数が1億1500万人を数え、いち早く旅行需要の回復が始まった世界最大市場の中国では、旅行者の行動に変化の兆しが見えてきているようだ。中国駐東京観光代表処によると、「消費者は体験や新しいサービスのために金を使うことが増え、安ければいいという風潮は減っていく」という。これまでは低価格のツアーを中心に強制的な買い物を旅程に組み込む旅行業者や悪徳ガイドの存在が問題視されてきたが、コロナ流行後は消費者が安全を第一に捉えるようになり、また経営不振の旅行会社が淘汰されることで、旅行業界への参入ハードルが高まり、質的向上につながるとの見通しもある。旅行業者はホテルや食事、交通など目的地情報を消費者に正確に伝え、新しい管理モデルの構築が求められることになる。

 中国旅行市場の最新動向に関しては、トリップドットコムグループが自社の予約サイトの動向を分析し、少人数(3~6人)、短期間(3~4日間)、レンタカー利用の旅行者が急増する傾向があると報告している。

価値を見つめ直す機会

 日本ではどうか。JTBとJTB総合研究所がまとめた「新型コロナウイルス感染拡大による暮らしや心の変化および旅行再開に向けての意識調査」によると、外出自粛や渡航制限が解除されたらやりたいこととして、国内旅行(40.9%)、外食(40.5%)、友人・知人に会う(39.1%)が上位を占めた。外出自粛期間中はテレワークやオンラインでの会議・授業が普及したが、コロナ禍の前後で考え方が変化したと感じることでは、「対面や直接のコミュニケーションは大切だ」(29.8%)が最も多く、「国内旅行をしたいという意識が以前より高まった」(23.2%)が続き、リアルでの触れ合いや旅行への欲求は失われていないことがわかる。

 ただ、世代別で傾向の違いも見られた。「旅行に行きたい気持ちが高まった」との回答が多かったのは29歳以下の女性層で、国内旅行・海外旅行ともに全体平均より10ポイント以上高い。逆に「旅行に対する関心が薄れた」との回答が多かったのは60歳以上女性で、全体平均を上回った。特に海外旅行に関しては「2度と行きたくない」との回答が14.6%と少なくないことから、同調査では「海外旅行者の世代交代も進む可能性があるかもしれない」と指摘する。

 すぐ行きたい旅行や外出については、友人・知人訪問(24.4%)、自然が多い地域への旅行(19.3%)、帰省(18.0%)、居住している都道府県内の旅行(15.7%)が上位。反対に、しばらく行きたくない旅行では、大都市圏への旅行(55.5%)や海外旅行(48.1%)が挙げられた。

【続きは週刊トラベルジャーナル20年6月29日号で】