文化財活用に新たな商機、法改正で町づくりから施設運営まで
2019.07.08 08:00
改正文化財保護法が4月に施行され、文化財を積極的に活用して観光需要を誘致し、総合的な地域づくりを図っていく法的体制が整った。自治体にとっては文化財活用に関する規制が緩和され、旅行・観光事業者にとっては新たなビジネスチャンスの到来といえる。
昨年6月、「文化財保護法及び地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律」、いわゆる改正文化財保護法が成立し、今年4月1日から施行された。改正は文化財の保護中心だった内容に活用の視点を加え、保護と活用の両立を目指すための内容に書き換えられたものだ。いわば保護一辺倒から活用重視への方針転換ともいえる。1949年に起きた法隆寺金堂の焼失というショッキングな事件を教訓に生まれたのが文化財保護法であり、その名のとおり、文化財の保護を主目的に50年に施行された。しかし、日本の環境変化に伴い、約70年ぶりに方針が見直された。
文化庁は法改正の背景として、大きく2つの要因を挙げている。第1に過疎化・少子高齢化などによる文化財の担い手不足だ。重要文化財に指定されている民家の個人所有者の平均年齢が73歳前後に達している現状があり、文化財行政を支える自治体の現場でも人手不足に悲鳴が上がっているのが実情だ。
第2に地域主体の文化財の掘り起こしや町づくりへの活用機運の高まりが挙げられる。政府の観光立国政策の効果もあって各地域が観光による活性化の取り組みを積極化しており、民間企業やNPOが歴史的建造物等の文化財を生かして地域活性化プロジェクトに取り組む事例も増えてきている。
文化財の保護から活用への方針転換を促した大きな理由が「明日の日本を支える観光ビジョン」の存在だ。観光立国を推し進める政府が打ち出した重要な政策指針だが、保護から活用への転換が明記。より具体的な目標として、20年までに日本文化遺産をはじめ文化財を中核とする観光拠点を全国200拠点程度整備すること、わかりやすい多言語解説、地域の文化財を一体的に面的に整備するといった事業を1000件ほど展開することが掲げられている。
観光ビジョンの実現を目指す具体的なアクションとして、政府は毎年、観光ビジョン実現プログラムを発表しているが、6月に発表された19年版では文化財保護法の施行にも触れ、改正文化財保護法に基づき、地域における文化財の総合的な保存・活用の取り組みへの支援を充実させることが盛り込まれた。多言語解説などのほか、文化財に新たな付加価値を付与し、より魅力的なものにするリビングヒストリー(生きた歴史体感プログラム)や、文化財磨き上げ事業における18年度の好事例を横展開し、事業の充実を図るとしている。
地域に活用の権限移譲
文化財保護法の改正のポイントは権限の委譲と規制緩和だ。(1)地域における文化財の総合的な保存・活用、(2)個々の文化財の確実な継承に向けた保存活用制度の見直し、(3)地方における文化財保護行政に係る制度の見直し、の3項目に分けて権限の委譲と規制緩和が行われている。
地域での総合的な保存・活用に関しては、まず、都道府県が総合的な施策の大綱を策定する。各市町村は大綱を勘案しつつ保存・活用に関する総合的な計画を「文化財保存活用地域計画」として作成し、国の認定を受けることができると定めた。地域計画が国の認定を受ければ、登録文化財とすべき物件を国に提案でき、現状変更の許可といった文化庁長官の権限に属する事務の一部も、それまでのように都道府県や市だけでなく認定町村でも行えることとし、地域計画の円滑な実施を可能にした。
継承に向けた保存活用制度の見直しについては、国指定文化財の所有者(または管理団体)が保存活用計画を作成し、国の認定を申請できるようにした。国指定等文化財の現状変更は、その都度、国の許可等が必要だったが、認定を受けた保存活用計画の範囲内ならば届け出などでも現状変更が可能になるなど手続きの弾力化が図られた。さらに、計画の認定を受けて文化財を美術館等に寄託・公開した場合は、美術工芸品に係る相続税の納税猶予といった特例も設けられた。
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