専門家・実践者が語る文化観光が目指す未来

2024.10.07 00:00

文化観光を通じた地方創生が注目されている。自治体、観光事業者、文化財所有者の関心も高まっている。そうした関係者を対象に、文化財保存活用の専門家や実践者を迎えて文化庁が主催したのが「文化観光セミナー2024-文化観光が目指す未来」だ。8月6日に開催された同セミナーからパネルディスカッションの模様を採録する。

▼ファシリテーター
丸岡直樹氏 文化庁文化観光推進コーディネーター
▼パネリスト
土屋正臣氏 城西大学現代政策学部准教授
山本陽平氏 あっぱれ代表取締役
赤星周平氏 京都市観光協会事務局次長
山本晴巳氏 旧邸御室館長
横田悠人氏 文化庁文化資源活用課専門官

丸岡 まず文化財活用について山本陽平さんからレクチャー願います。

山本陽 文化資源活用は3つのステップで構成されます。ステップ1は事業計画の策定。中長期な計画であり、自走を前提に収益確保まで考えた内容が求められます。ステップ2はプロジェクトの実行。文化財所有者から観光活用に携わる事業者まで総力戦でチームアップして実施体制を組んだうえで、魅力ある文化財活用コンテンツを用意しオペレーションに乗せ、販売し運営していく必要があります。ステップ3では事業を定期的に振り返り、改善を繰り返し、実施体制や人材育成状況、コンテンツの内容等をブラッシュアップしていきます。

 ステップ1と2のポイントをさらに説明します。ステップ1では特に収益向上と支出の改善は重要で、自走化、脱補助金頼みを考えなくてはなりません。そのためプライシングをどうするか。現状では5000円、1万円の価値がある体験を数百円で提供してしまう事例もあり、ブランディングにも悪影響を及ぼしています。また、事業継続の原資を確保するためクラウドファンディングやふるさと納税、公式グッズの販売など、アイデアを凝らす必要があります。

 ステップ2では外部から人を入れてしっかりとした実施体制を作ること。地域で対応できない部分には外部から人を入れる。特にクリエイティブやディレクションは経験がないとできないため外部人材の確保が鍵を握ります。一番良くないのが外部事業者へ丸投げすることです。

 コンテンツの制作と実施については再現性が重要。補助金を獲得したから皆で無理してやったけれど疲れてしまい翌年以降は続かないケースは多い。だから再現性が重要です。文化財に関しては地域側が大きな変化を嫌がります。その意味でも小さな成功の積み重ねと再現性が重要なのです。

 出来上がったコンテンツの発信と販売も大切で、販売ターゲットに合わせてOTA経由、ホテルのコンシェルジュ経由、旅行会社経由等の販売チャネルを作り上げることが欠かせません。

丸岡 文化財活用をどうやるのかの基本が分かったところで、なぜ行うのかを伺っていきます。

土屋 文化財保護とは、そのモノを保護するのではなく、保護する人たちの関わりを通して新しい文化を創っていく点に意味があります。文化財の活用は、地域の中で誰かの居場所をつくったり、自己肯定感を生んだり、地域への愛着を育んだりすることにつながる。それが文化財の保護と活用の真の価値だと思います。

赤星 京都を訪れる観光客の大多数がオーセンティックな日本を体感するためにやって来られます。従って日本文化を体現しているさまざまな文化財の観光への活用が前提であり、それなくして京都観光は成り立ちません。その意味で文化財の担い手の皆様へのリスペクトを忘れない姿勢が重要と考えています。

山本晴 なぜ文化財の活用をするのか端的に言えば、活用しなくては文化財を残せないからです。文化財を残したい思いが出発点です。当社の社長が遺産相続した国登録有形文化財の歴史的建築物を守るため、文化財活用事業を手掛けることにしたのが出発点でした。ただし、継続的に活用していくには収益という結果が必要だと、携わってみてあらためて身に染みて感じています。その収益を生むために必要なのは、結局その文化財を残したいという強い気持ち。それがなければ結果も出ないことも分かりました。従って「文化財活用をなぜ行うのか」に対する私たちの答えは、「文化財を残したいから」となります。

【続きは週刊トラベルジャーナル24年10月7日号で】

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