観光の趨勢と日本の競争力 世界3位が示すもの
2024.07.08 00:00
世界経済フォーラムが隔年で発表している旅行・観光開発指数の24年版で、日本が世界119カ国・地域中3位となった。依然として世界のトップ水準にあるが、前回調査の1位からランクダウンした。その要因は何か。世界の観光の趨勢と日本の競争力を読み解く。
旅行・観光開発指数は評価対象の指標に時代の要請ともいえる要素が反映されており、時代の変化とともに随時見直しが行われる。前回に続き、今回も変更が加えられた。この変更が日本のランキングの変動に影響している。
前回調査の21年版では、旧指標に基づくと日本はスコア5.25で1位に輝いたが、新指標に基づき再採点をすると5.16で2位だったことになる。そして24年版では5.09で3位となった。指標の変更で1つ順位を下げたうえ、さらに年を経てもう1つ順位を下げたことになる。実はこの2つのランクダウンは全く種類が異なるものだ。
まずは指標変更について。評価は5分野17項目102指標から成る。そのうち5分野は名称やコンセプトの変更はあるものの基本的に維持されている。17項目も単純比較が可能な範囲だ。各項目は最高点が7点、最低点が1点である。
見直しによって21年版で日本のスコアが1ポイント以上下がった項目は2つある。「観光サービスとインフラ」と「旅行・観光の社会経済的インパクト」である。この2項目だけで日本は総合スコアを0.14ポイント押し下げており、全体に与えたインパクトの大きさがよく分かる。
日本の弱みが明るみに
「観光サービスとインフラ」は、変更前は5つの指標で構成されていたが、そのうち「大手レンタカー会社数」「ATM数」「観光関連サービスの競争力」の3つが廃止され、新たに「ホテル・レストランの労働生産性(ドルベース)」「旅行・観光設備への投資強度」の2つが導入された。ホテル・レストランの労働生産性は従業員1人当たりの付加価値から算出されており、かねてから労働生産性の低さが課題とされている日本は3.31(57位)と厳しい評価になった。新指標に基づき再採点された21年版の観光開発指数トップ10の中では、中国の3.29(58位)に続いて2番目に低い。また、旅行・観光設備への投資強度は、旅行・観光分野における官民の投資額(旅行・観光従事者1人当たり)により算出され、日本は4.25(44位)。フランスの7.00(満点)、米国の6.86(14位)などとはここでも大きく差を付けられた。
レンタカーやATMなど、必ずしも用途が観光に限定されない社会インフラは、日本を含め先進国はどこも比較的高い評価点を得やすい指標だった。しかし、旅行・観光産業に特化した経済指標を具に見られてしまうと、日本はまだ相対的に出遅れているということが如実に表れたといえそうだ。
「旅行・観光の社会経済的インパクト」は、「社会経済的レジリエンス」から名前が変更されたこともあり、ここに含まれていた指標が他の項目に移されるなど変化が大きく単純比較が難しいが、新たに加わった3つの指標のうち最も日本の順位が低かった「高所得分野に占める観光の割合」に着目したい。これは旅行・観光業へ直接従事する者のうち、上位3分の1の平均所得を得ているセクターの従事者が占める割合で算出される。日本は1.78(107位)と非常に低い。この指標は国内の相対的な状況を測るもので、旅行・観光以上に稼げる産業が限られる新興国にとって有利になるが、日本は米国の3.91(41位)やスペインの2.67(76位)と比較しても突出して低い。旅行・観光業の所得水準の低さは大きな課題となっているが、観光開発指数において大きく響いた。
指標変更によってスコアを1点以上下げた項目の数は日本は上記2つだったが、米国は1つもなかった。また、スコアを1点以上上げた項目は日米ともになかったが、米国は小さな加点を積み重ねて総合スコアが上昇し、全体で1位となった。
平林潤●クニエ ディレクター。外資系コンサルティング会社を経て、現職にてSDGsの達成に貢献するビジネスのコンサルティングを担当。観光分野では、官庁・自治体の観光振興のための支援や、海外における持続可能な観光開発のための戦略策定・調査分析などを実施。
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