話題のイマーシブははてなだらけ
2024.05.27 08:00
週刊トラベルジャーナル5月20日号特集でイマーシブについて書いたこともあって、ちょうどオープンしたイマーシブ施設に行ってみた。もともと中世ヨーロッパの街並みを模した大型ショッピングモールだった。その建物を居抜きでイマーシブ専用施設に。メディアでも大々的に取り上げられ前評判は高い。
公式サイトでチケット購入。入館料と有料アトラクションのセットが9800円。同価格帯のテーマパークが頭をよぎり、「この程度の内容で?」と感じる。オープン少し前に到着すると入場口に100人ほどの行列。予約不要の無料アトラクションが目当てだろう。ただ、完全前売り制なのでオープンすればすんなり入れる。
入ってすぐのコインロッカー室はありがたい。個数も種類も十分。飲料自販機はあるが価格は市中の1.5倍ほどだ。館内はショッピングモール時代とほぼ同じでいくつかのエリアにイマーシブ設備が造成される。ただ、運営会社以外の店舗はゼロで多くのシャッターが閉まる。にぎわいがなく屋内シャッター商店街の様相。再入場不可で休憩や飲食は館内店舗に頼るしかないが不十分。提供内容と価格のバランスも悪い。
予約したアトラクションのゲートを探すが見つからない。ようやくたどり着き入場、注意事項が説明される。項目が多い割に説明は雑。それでも観劇ルールが守られていたのはSNS等で事前にチェックしている客が多いからだろう。
上演開始。事前に見た映像でも気になっていたが音響に難がある。ノンマイクなので役者は大声でセリフを言うが音が反響して聞き取りにくい。逆に小さな声のシーンは聞こえない。スポットライトは固定式。イマーシブゆえのセッティングだろうがどこに目を向けるかが分からない。劇中多くのシーンは床面で演じられ、人だかりの後ろからは何をやっているか分からない。役者が歩きながらセリフを言う場面も多いが、すぐ横にいないと聞こえない。
同時に複数の場所で別々のシーンが演じられるのは意欲的な試みだが移動が頻繁に起こるので見失わない努力が必要。試しに誰にもついていかないでみたら完全に置いてけぼり。演じている場所が見渡せず見取り図もないので呆然と立ち尽くす。同じようにガランとした通路でボーっとする客はどの時間帯も10人程度いた。
スタッフはそのような迷子客に声をかけない。開き直って「はぐれたがどこに行けばよいか」と聞くと「やっぱり」という微笑を浮かべ道を教えてくれた。しかし演じている場所に名前がなくマップもない。たどり着くには角を何度も曲がったり階段を使ったりする必要がある。
終演後、無料のイマーシブも回った。失礼だが、ややレベルの高いお化け屋敷程度。物販や飲食のオペレーションも合格点といえない。
この施設、非常に努力しているのは分かるが、ネット上でも賛否が大きく分かれ万人受けしない。改良を重ね、誰にでも自信をもって紹介できるアクティビティーになることを期待したい。
黒須靖史●ステージアップ代表取締役。中小企業診断士。好奇心旺盛で旅好きな経営コンサルタント。さまざまな業種業態の経営支援に携わり、現場中心のアプローチに定評がある。
カテゴリ#コラム#新着記事
-
?>
-
米国で捨てられる小銭
?>
-
なぜできないの
?>
-
カスハラの浸透
?>
-
観光の限界点のその先に
?>
-
ブランドと価格
?>
-
継続してこそ
?>
-
西高東低
?>
-
みらいとは
キーワード#黒須靖史#新着記事
週刊トラベルジャーナル最新号
アクセスランキング
Ranking
-
新上五島町に観光案内ロボット あえて人が遠隔操作 雇用機会にも
-
修学旅行脱ピンチの糸口 無償化が投じる一石
-
シンガポール政府観光局が開局60周年 観光の目玉続々オープンで誘致に拍車
-
8月の主要旅行業者取扱額、3分野ともに19年比7割 業務渡航が先行
-
訪日キーパーソンが語る未来に続く本物の価値
-
アジアの中高所得層、旅行を優先 収入の23%を支出へ 日本は人気上位
-
DXで稼げる地域へ15件採択 観光庁、予約サイト構築やCRM支援
-
サステナブル意識と行動に乖離 トリップ・ドットコム調査 旅行会社は積極的な情報提供を
-
『パーティーが終わって、中年が始まる』 氷河期世代の疲れた今に
-
旅費高騰の修学旅行、方面や時期見直し意向が顕著 泊数減も検討課題