宿泊税を考える 地域の事情と制度設計のあり方

2024.01.22 00:00

(C)iStock.com/DragosCondrea

宿泊税導入に向けた動きが各地で活発化している。すでに導入する自治体も税の引き上げを検討する。観光振興の取り組みを支える安定財源として期待される宿泊税だが、最適な税率や税額の見極め、徴収義務者の負担軽減、都道府県と市町村の二重課税など制度設計上の課題は多い。

 コロナ禍が沈静化し5類移行で行動制限が撤廃されようという昨年4月から宿泊税を導入したのは長崎市だ。市議会は22年3月に宿泊税導入に必要な条例案を可決。6月には総務相が同意し23年4月1日からの宿泊税導入の条件が整った。課税対象には旅館やホテルに加え民泊の宿泊者も含まれる。税額は1人1泊当たり100円・200円・500円の3段階定額方式で、市内の年間宿泊者数約240万人と宿泊施設の料金から試算すると税収は初年度3億7000万円が見込まれる。

 長崎市は19年10月から宿泊税検討委員会を開催し20年8月に素案をまとめ、これに基づく条例案に対するパブリックコメントを経て議会で可決。周知期間を経て条例施行となった。コロナ禍を挟む約2年半の取り組みの成果だった。

 現在、宿泊税を導入する自治体は東京都、大阪府、京都市、金沢市、倶知安町、福岡県、福岡市、北九州市、長崎市の9つ。長崎が最新事例だ。

 宿泊税が注目されるようになったのは00年4月の地方税法改正だ。地方自治体が法定外税を新設できるようになった。真っ先に導入したのが東京都で02年に宿泊税条例を施行した。しかし当時は出張を含む巨大需要があるからとの見方が支配的で、大阪府が2例目として17年に導入するまで15年を要した。その後は毎年導入数が増え、20年4月までに計8自治体が宿泊税を実現した。

 17年以降に導入自治体が急増したのは、インバウンド需要が爆発的に伸びた影響もあった。その後、コロナ禍で観光需要が激減した結果、未導入の各自治体における宿泊税の議論も停止。それがコロナ禍の沈静化と5類移行を機に、全国各地で再び議論が動き出したわけだ。

 いち早く動き出したのが熱海市だ。22年12月に宿泊税の条例案をまとめ導入の是非について財政審議会に諮問し一歩前進。23年6月の市議会では特別徴収義務者となる宿泊事業者への説明を進めていることが報告された。同市の宿泊税が実現すれば約6億円の税収になるという。

 東海地方で先陣を切るかもしれないのが中部空港を擁する愛知県常滑市だ。宿泊税検討委員会を設置し23年8月に第1回会議を開催。11月に報告書をまとめた。1人1泊200円の定額方式で、税収規模は約2億円を想定。25年施行を目指す。

 23年9月以降になると東北の自治体で続々と宿泊税導入の検討開始や再開が発表された。弘前市は桜田宏市長が9月の市議会定例会で導入検討に積極姿勢を示した。同じ9月に宿泊税導入の検討方針を明らかにしたのは秋田市の穂積志市長だ。さらに11月には仙台市が3年8カ月ぶりに宿泊税の検討を再開。20年1月に設置され宿泊税導入を議論してきた仙台市交流人口拡大推進検討会議は、観光振興のための安定財源確保には「宿泊税が適当」との方向性を示していたがコロナ禍により同年3月で休止していた。

 3年前に県議会に宿泊税の条例案を提出していた宮城県も導入に向け議論を再開。12月の県議会で村井嘉浩知事は「早期に関係者から意見を聞き、観光産業の回復状況を見極めて導入時期を判断する」とし、24年の条例案提出を目指す。

 東北以外でも動きは活発だ。千葉県の熊谷俊人知事は10月の会見で「千葉県の新しい観光振興に向けた研究会」の設置を発表し、宿泊税について「財源面からの議論自体、避けて通れない」と説明。同27日には研究会の初会合を開いた。

 熊本市も宿泊税の検討委員会が10月に立ち上がっている。宿泊事業者や旅行者を対象としたアンケート調査などを手始めに検討作業を進めていく方針だ。同月には長野県を代表するリゾートエリアの白馬村でも宿泊税の導入検討を再開した。

【続きは週刊トラベルジャーナル24年1月22日号で】

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