ステマ規制と観光プロモーション 景表法新ルールの影響と対策

2023.06.05 00:00

(C)iStock.com/OleksandrShchus

広告であることを隠したまま宣伝行為をするステルスマーケティグの規制が10月から始まる。観光業界ではインフルエンサー等の活用や新聞・雑誌媒体等でのタイアップ記事掲載などが広く行われている。新ルールがもたらす影響は少なからずありそうだ。

 広告主が広告であることを隠したまま商品やサービスについて宣伝するステルスマーケティング(ステマ)の規制が10月1日から施行される。ステマであるとされれば景品表示法違反となり、広告行為を行った事業者が行政処分の対象となる。消費者庁が事業者名を公表し再発防止を求める措置命令を出す。これに従わなければ刑事処分として個人に対しては2年以下の懲役または300万円以下の罰金またはその両方となる。法人や団体に対しては最大3億円の罰金もあり得る。事業者が自ら一般客を装いSNSやECサイトに投稿した場合だけでなく、インフルエンサーなど第三者に依頼して商品やサービスのレビューをSNSやECサイトに書き込んでもらった場合も規制対象となり得る。

 ただし規制の対象は商品・サービスを提供する事業者であり、情報発信を依頼されステマにかかわったとしてもインフルエンサーなどの第三者が処分の対象になることはない。

 ステマが規制されるのは日本ではこれが初めてであるため、事業者はあらためて過去の広告展開を含めて見直しを進める必要がある。規制対象は10月1日以降に一般消費者の目に触れる広告であり、以前に作成しこれまで宣伝してきた広告を継続展開したり残っていたりした場合も規制の対象になり得る。従って過去の広告の展開状況のチェックも必要となる。

規制が遅れた日本はステマ天国

 ステマの問題がクローズアップされるようになったのは、消費生活のデジタル化が進みインターネット上で提供される広告量、情報量が増大したことが背景にある。デジタル化が進む以前から主要マスメディアだった4媒体(新聞、雑誌、ラジオ、テレビ)の広告でもステマが存在しなかったわけではないが、大きな問題にならなかった。4媒体の事業者は比較的大企業が主体で、メディアとしての歴史もあり社内規定も確立、広告審査も機能している。社会的責任に対する意識も高く、業界団体による自主規制も浸透している。自浄作用が働きやすい環境だ。

 ところがインターネットの普及により事態は大きく変わる。インターネット広告が年々増加し21年にはインターネット広告費がマスメディア4媒体の広告費合計を上回り、広告市場のメインプレーヤーになったからだ。インターネット広告を取り扱う企業は比較的小規模で広告審査の甘さは否めず業界団体の規制も働きにくい。またSNS上で広告を含めた情報発信を行うインフルエンサーが出現し影響力を増すとステマ行為に対する歯止めがきかない状態になってきた。広告の出稿コストもインターネットでの露出コストは主要4媒体に比較して安く、ステマで炎上するリスクを考慮しても割安で、簡単に成果を得られると判断する事業者も少なくない。

 消費者庁の調査でも、レビューサイトでの不正レビューの募集がSNS等で公然と行われている実態が報告されている。また調査対象のインフルエンサーの41%が「ステマを広告主から依頼された経験がある」と回答。その45%はステマ依頼に対して「全部受けた」あるいは「一部受けた」と答えている。さらに依頼を受けたインフルエンサーのうち64%がステマを受けた理由として「ステマに対する理解が低かった」と振り返っており、消費者庁はステマが規制されていないこともあり、その問題点についての理解が十分でないと指摘した。

 ステマに関する問題が社会問題として取り上げられることも増加。17年には日本弁護士連合会がステマ規制について意見書を消費者庁に提出し問題提起を行った。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年6月5日号で】

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