<寄稿>データ活用にヒントあり 業務効率と顧客満足を向上
2022.08.22 00:00

コロナ禍で大打撃を受けた観光産業だが、各国の出入国の規制緩和が進み、回復の兆しが見えてきた。特に日本では今夏、航空各社がリゾート路線を拡大し予約も好調なほか、世界経済フォーラムが117カ国・地域をランキングした観光競争力で日本が初の世界首位になるなど、今後インバウンドも期待できる。一方、観光に携わる企業にとって、従来需要予測として活用してきた過去の実績データではパンデミック後の需要予測は立てづらくなっている。今後は複数の有効なデータを活用していくことが早期復活の鍵を握るだろう。
もっとも、航空会社はデジタルイノベーションをいち早く取り入れた業界の1つであったにもかかわらず、その後は勢いが失速している。いまだに縦割り型のサイロ化したレガシーシステムを採用している企業も少なくない。そこにあるデータを開放してアクセス性を高め、航空会社、空港、旅行会社が大いなる力を秘めた分析インサイトを得られるようにならなければならない。
世界の航空業界が苦境から立ち直りつつあるなか、注目されているのが航空会社の定時性だ。米国では昨秋、大幅な遅れやキャンセルが発生。航空会社はパンデミックからの回復期において、スケジュールを急きょ増やす難しさに直面した。そしてその影響は空港など関連業界にも及ぶ。
定時性向上が生み出すメリットの大きな1つは、顧客ロイヤルティー向上につながることだ。時間に追われる旅行者にとって定時性はロイヤルティー向上に直結する。旅行者だけでなく、空港、政府、企業などあらゆるステークホルダーは業界が想定する以上に定時性を知りたいと思っている。
世界品質の定時性を目指すには、自社システムでは取得できない競合他社を含めた相対的な定時性実績を把握する必要がある。全日空や日本航空などの航空会社はデータを利活用し、他社をしのぐ定時到着率を実現した。これらの航空会社は将来および過去のフライト時刻表から、リアルタイムの運航情報やフリート情報など多くのデータを活用し、時刻表、路線計画、機材整備、給油を最適化した。リアルタイムのデータを取得し、その分析を社内共有。世界中の航空会社のデータと比較しながら、自社の遅延の傾向分析を行い定時運航率向上に努めた。
さらにデータを顧客とのコミュニケーションにも活用しており、フライト遅延やゲート情報をモバイルアプリなどで通知することで満足度を向上させ、混乱を最小限に抑えるなどロイヤルティーを高めた。
定時運航率データが以前にも増して研究・分析される理由は他にもある。環境への影響が叫ばれるなか、ゲートが空くのを待つ間、飛行機が燃料を消費しながら空中を旋回している状況を考えてみてほしい。環境意識の高い旅行者はその点も航空会社の選定基準とするため、定時運航率を知りたいと考えるだろう。
定時運航率の向上は、航空会社や空港に限らず送迎で利用されるタクシーや貨物便に関わる物流などの業界のオペレーション管理、パフォーマンス向上にも影響する。データを活用し、定時到着・出発率において正確性を維持することは、これまで以上に重要になるだろう。
高坂美恵子(シリウムカントリーマネージャー)
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