インバウンド再開 コロナ禍を経た変化と課題

2022.07.11 00:00

(C)iStock.com/kyonntra

6月10日から観光目的の外国人の新規入国が認められ、2年以上停止状態だった訪日旅行が動き出した。ただ、多くの条件が付いた解禁で、ロケットスタートとはいかない。向き合う市場はコロナ禍前とは異なり、国内の受け入れ環境も変化している。

 政府が訪日観光解禁を発表した翌日の5月27日、21年度決算発表に臨んだJTBの山北栄二郎代表取締役社長は「この2年間の状況から回復へ向かう大きなステップになる」と喜びを示した。さらに想定より解禁が早まったとして、19年度の2~3割程度と見ていた22年度の訪日旅行市場の回復予想の上振れも示唆した。

 解禁のニュースは、日本への旅行を心待ちにしていた訪日旅行予備軍にも早速届いたようだ。東武トップツアーズによると、解禁が発表された直後から連日問い合わせが押し寄せている。「フィリピン、インドネシア、マレーシア、シンガポールなど、特に東南アジアの訪日パッケージツアーを取り扱う旅行会社からの問い合わせがかなり多い」(グローバル事業部グローバル営業部・飛田野瑞希主任)。求める内容には変化が見られ、「フィリピンはこれまで予算を抑え気味だったが、5つ星ホテルに関する問い合わせがあり珍しい」(同)。

 ヨーロッパ各国も日本の観光旅行解禁に熱い視線を送っている。日本旅行の緒方葉子執行役員訪日旅行営業部長は6月初旬まで2週間にわたり現地を視察し、関心の高さを実感した。「ヨーロッパ域内旅行は活況を呈しているが、長距離方面は回復に至っていない。旅行者が自己手配できる近場でなく、長距離方面を売りたいというのはどの国の旅行会社も同じ。東京五輪の影響もあり、日本の解禁を熱望していた」

 ターゲット市場は変化する見通し。訪日旅行市場で最大シェアを占めていた中国がゼロコロナ政策を継続しており、当面の間は回復が見通せない。日本が入国時の接種証明に有効と認める英米製ワクチンが普及していないという問題もある。観光庁の和田浩一長官は「東アジアは規制が厳しく、すぐに回復は難しい。タイやシンガポールなどにプロモーションを注力していく」といい、期待をかける欧米豪では特に訪日リピーターの多い米国と豪州を重視する。JTBも「欧米豪は早くコロナ前の水準に戻るのではないか」(山北社長)との見立てだ。

 各国からの問い合わせの多さは潜在需要の高さを示している。と同時に、解禁の詳細な中身がわかりにくいという側面もあるとみられる。わかりにくさの理由は、そもそも例外的な措置として実現したものだからだ。

開国遅れキャンセル事案も

 政府は原則としてすべての国・地域からの新規入国を一時停止していることに変わりはなく、「特段の事情」がある場合に限り新規入国を認めるとするのも、これまでどおりだ。形式上はその特段の事情として観光目的の短期滞在の新規入国が認められたにすぎない。

 また、認められるには大きく3つの条件を満たす必要がある。第1に水際措置において、感染状況が落ち着いている青区分の国・地域からの入国であること。6月現在、青区分は98カ国・地域を数え、北米、オセアニア、東南アジア、東アジア、欧州の各主要国が入る。ワクチン接種証明書は求められないが、出国前72時間以内の検査に基づく新型コロナウイルス感染症の陰性証明書は必須だ。

 第2に、旅行者が旅行会社や旅行サービス手配業者(ランドオペレーター)を受け入れ責任者とすること。つまり入国してから出国するまでの行動管理の責任を旅行事業者が負うことが求められており、旅行の現場における管理責任者として添乗員が同行するパッケージツアーの参加者に限定される。観光庁はその後のQ&A集などで、ツアー参加人数は1人から可能であること、旅行者自身の航空券手配も可能と補足説明し、旅行形態の範囲はやや広がったが、日本滞在中の行動は管理が必要だ。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年7月11日号で】