城に泊まる 体験コンテンツの旗手となるか

2021.07.12 00:00

旅行者の消費拡大を図るには、新たな体験型コンテンツの開発が不可欠だ。そこで注目を集めるのが城に宿泊する「城泊」を中心に据えた日本文化体験。観光庁も有望と見て推進事業を本格化している。ただ、文化財の活用は乗り越えるべき課題が少なくない。果たして体験コンテンツの旗手となるか。

 観光立国の基盤となる観光消費の拡大を目指す観光庁は、富裕層旅行者の消費意欲喚起につながる城泊の推進に取り組んでいる。とりわけ訪日外国人旅行者の消費拡大への効果に着目。城泊の政策的意義として、城が地域の象徴的な歴史的資源であり、欧州では古城や宮殿を利用したホテルの人気が高いことや、日本の城に関心が高い訪日外国人のニーズに応え得ること、全国に点在する城を活用したユニークな体験型宿泊コンテンツができれば地方誘客の促進につながることを挙げている。政府が16年に「歴史的資源を活用した観光まちづくりタスクフォース」を立ち上げ、古民家をはじめとする歴史的資源を観光資源として再生・活用する取り組みを開始。関係省庁が一体となって進めてきた歴史的資源の観光活用の趣旨に合致する取り組みであることも、城泊の推進を後押ししている。

 観光庁は20年度から城泊関連の支援事業を1億円を割いて予算化した(寺泊関連の支援含む)。城泊・寺泊による歴史的資源の活用を目的に専門家派遣事業と補助金による支援事業を手掛ける。「専門家派遣は城泊の意欲がある実施主体をいわば発掘するための事業、補助金は実際の城泊を磨き上げるための支援」(観光資源課)との位置付けだ。このうち、支援の対象となった愛媛県の大洲城は昨年7月から、長崎県の平戸城は今年4月に城での宿泊をスタート。城泊が緩やかに広がり始めた。

 専門家派遣事業では、福島県・小峰城、大阪府・岸和田城、広島県・福山城、島根県・松江城、香川県・丸亀城、大分県・臼杵城、宮崎県・綾城の7つが選ばれ、昨秋から今春にかけて城泊の専門家や観光庁担当者らが各城を視察し、城泊の実現に向けたアドバイスなどを行った。

 専門家派遣と補助金支援は21年度も継続し、予算は20年度と同じく1億円を用意。城泊の補助金は20年度が補助率50%・上限額750万円だったのに対し、21年度は上限額を800万円に引き上げた。専門家派遣と補助金は別個の支援メニューで、専門家派遣が補助金対象の前提になるわけではない。専門家派遣の対象の中には「これから城泊を検討したいが何から始めればよいか」と相談したケースもあり、城泊の実現に至るかどうかは別問題だ。専門家の指摘を受けて城泊の計画を改め、練り直すようなケースもある。もちろん中には、観光庁が期待するように発掘から磨き上げへの道筋を歩む城も存在する。

周年事業を契機に着手

 たとえば福山城は、昨年度に専門家の派遣を受け、今年度は補助対象事業である体験コンテンツの造成に取り組むため応募の準備を進めている。福山城は22年に築城400周年を迎える。現在、耐震改修と外観復元、夜間景観照明整備などを目的とする令和の大普請が進行中。ソフト面では、城の魅力をさまざまな角度から発信するためのアイデアが練られており、福山城博物館の展示リニューアルのほか、新たな体験コンテンツづくりを目指している。城泊はその一環だ。

 派遣された専門家が「平戸城や大洲城とは異なる都市型城泊の典型例となる可能性を秘めている」と評価した岸和田城は、市制100周年事業の第2期行動計画(19~22年度)に訪日客誘致の一環として活用推進が盛り込まれている。岸和田市観光課は専門家のアドバイスも踏まえ、市制100周年となる22年に向けて城泊の実現を目指す考えだ。

【続きは週刊トラベルジャーナル21年7月12日号で】

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