フランスも短距離航空廃止へ
2021.06.14 00:00
4月10日、フランス下院では激しい議論を経て、気候変動法案の一環として列車で2.5時間以内で行ける距離の国内航空路線を廃止し、列車への転換が決定された。上院での採決を待ち実施される。
20年4月に、フランス政府は欧州連合(EU)の同意のもとにコロナ禍でのエールフランス-KLMの経営救済のために歴史的な金額といわれた70億ユーロの融資を実施した。これに応じて同航空は、21年末までに国内路線40%の廃止を約束したとされる。
今回の措置でパリ・オルリー空港からこれまでの主要路線であるナント、ボルドー、リヨンが列車での所用時間が1時間5分~1時間50分で、今後廃止される。一例としてパリ/ナント間は現在、毎日航空8便・所用1時間5分、列車19便・所用1時間57分である。ただし、乗り継ぎ便は例外的に認められる。例えば、ナントからニューヨークへ向かう乗客は直行便がないので、ナントからパリのシャルル・ド・ゴール空港まで飛んで国際線に乗り継ぐことが可能である。廃止路線に他の格安航空が就航することは禁じられている。
議論の背景にはマクロン政権が19年に発足させた、抽選で選考された150人の市民で構成される気候変動市民評議会がある。その使命は市民自らが30年までに少なくとも温室効果ガス1990年比40%を削減する具体的政策を提案することで、20年6月に公表した149提案の1つが、4時間までの列車移動可能な国内路線の25年までの廃止だった。結果として、下院が2.5時間を選択した理由を運輸担当大臣は、4時間にすると内陸の中央山塊のような地域が周囲から孤立する恐れがあると説明した。
消費者団体UFC-Que Choisirは、この路線での航空乗客1人当たりの二酸化炭素(CO2)排出量は列車の77倍で、そのうえ列車は料金も安く、所要時間差もわずかとこの改革を強く支持していた。4時間案を支援する根拠としてフランス環境エネルギー管理庁(ADEME)による統計数字を引き合いに、2.5時間では対象5路線、乗客は国内線全体の12%、CO2排出量は3.5%であるが、4時間では18路線、乗客30%、排出量12.5%になると国会議員に強く働きかけていた。2.5時間で決着したことにはマクロン政権が改定案を骨抜きにしたとの批判も一部にはあるらしい。
周知のように、航空から鉄道への移行は全欧州共通の現象であり、18年にスウェーデンから起こり、世界中に浸透した「フライトは恥」運動から19年同国の1~7月国内航空で8.7%の乗客が減少し、今度は「汽車に乗る誇り」と称された。
20年にはベルギーの大臣がたった55kmのブリュッセル/アントワープ間の航空路線を利用して非難された。オーストリアでは昨年6月、350km以内の航空路線に税金を課し、列車で3時間以内の国内線を廃止することを決めた。オランダでは所用1時間のアムステルダム/ブリュッセル航空便5便のうち20年に1便を列車に移行、これからも列車を増やしていく。
今後は唯一の移動手段となった路線の鉄道が旅行者の期待に応えられるサービスを提供できるか、そして新しい移動方式の定着に伴い、欧州各国での国内観光がどう変わっていくのか興味深い。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
【あわせて読みたい】フライトシェイム航空産業に吹く逆風 近距離の航空路線縮小、欧州で広がり
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