クルーズの未来を描く 回復の道筋と変化への備え
2020.08.31 00:00
新型コロナウイルスの流行で最も影響を受けた分野の1つがクルーズだ。再開の動きが出てきた一般的な旅行と比べて、本格的な再開への動きは遅れ気味。魅力付けや売り方にも変化が求められる。コロナ時代のクルーズをどう描けばいいのか。
今年2月、横浜で発生したクルーズ船内での新型コロナウイルスの感染拡大はクルーズ業界にとっての悪夢の始まりだった。船内での感染が連日大々的に報道され、当初は日本当局の対応のまずさがクローズアップされたが、事態が長引くにつれてクルーズそのもののマイナスイメージも広がっていった。同時に世界中で感染拡大の火の手が上がり、当初は対岸の火事と見ていた諸外国でもクルーズへの警戒感が高まっていく。実際にクルーズ船内における感染についても第2、第3の事例が報告されるようになり、感染者を乗せたクルーズ船の寄港が各国で拒否され海上をさまよう事態にまでなった。
3月には運航中止を発表する船社が世界中で相次いだ。当初は向こう1~2カ月程度のクルーズを中止するとの発表が多かったものの、感染拡大が世界中で加速する一方で、クルーズの運航中止期間も延長を繰り返し、次第に延びていった。
6月に入ると、まず欧州で運航が再開されたが、全世界を見渡せばごく一部にとどまる。依然として世界中でクルーズ船の運航中止が続いており、中止期間を再延長したり、年内の再開を諦めたりするケースもある。
大手の動きを例に取ると、プリンセス・クルーズは7月の段階ですでに12月15日までのすべてのアジア、カリブ海、米西海岸、ハワイ、メキシコ湾、パナマ運河、南米・南極、タヒチ・仏領ポリネシアクルーズの運航中止を発表。8月6日には、ロイヤル・カリビアン・クルーズが9月末までとしていた運航中止を10月末まで延長すると同時に、欧州と大西洋横断クルーズに関してはさらに1カ月先の11月30日まで運航中止する方針を明らかにした。バイキングクルーズも全船の運航停止を12月末まで延長すると発表した。
日本を代表するクルーズ船である郵船クルーズの飛鳥Ⅱも、9月に予定していた「秋の日本一周クルーズ」など4本のクルーズの運航中止に続き、10月3日出発の横浜・名古屋ワンナイトクルーズの中止を8月12日に発表したばかりだ。かくして目下、世界中のほとんどの海にクルーズ船が存在しないに等しい異例の事態が続いている。
感染予防と安全対策を強化
もちろんクルーズ業界や個々の船社は運航再開へ向けてさまざまな取り組みを行っている。その大前提が感染予防対策を柱とするクルーズ旅行における安全の確保であることはいうまでもない。
ロイヤル・カリビアン・グループとノルウェージャンクルーズライン・ホールディングスは7月、共同で強化型クルーズ健康安全基準を策定すると発表した。米国保健福祉省(HHS)の元長官や米国食品医薬局(FDA)の局長経験者をはじめ、公衆衛生、感染症、バイオセキュリティー、ホスピタリティー、海事オペレーション等の世界的に著名なエキスパートで構成する専門家委員会を発足させ、基準の検討を開始。衛生対策やスクリーニング手順の強化、ソーシャルディスタンスの実践、船から陸上までの安全サポートが柱で、このうちソーシャルディスタンスでは、時間差を設けての乗船や事前チェックインを検討している。乗客はもちろん、クルーや寄港地コミュニティーに対する安全対策への高いコミットメントを打ち出した格好で、8月中には最初の取りまとめを行いたい考えだ。
また、MSCクルーズは独自に包括的な衛生と安全に関するプロトコルをまとめている。同社の地中海クルーズの運航再開のために策定したもので、地域や国レベルで設定されているガイドラインを上回る内容としたのが特徴。欧州疾病予防管理センター(ECDC)や欧州海上保安機関の衛生基準などをクリアする内容であることが重視されている。
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