旅行業参入、それぞれの理由 水族館からMICE施設まで

2020.06.01 00:00

多様な事業者の参入が新たな商材を生みだす
(C)iStock.com/Eskemar

異業種企業の旅行業参入が後を絶たない。近年はIT系企業による参入が目立っていたが、ここへきて集客力を持った観光施設が自ら旅行業に乗り出すケースも増えてきた。それが意味することは何か。異業種参入の歴史的流れと背景を探る。

 新規参入が比較的容易とされる旅行業は、これまでも異業種参入が活発に繰り返されてきた。時代背景によってその時々の新規参入メンバーの顔ぶれは変化し、各時代に勢いのあった参入企業の力を借りて産業規模を拡大してきた面も否めない。

 1970年代から80年代にかけては百貨店やスーパーといった流通大手による旅行業参入が目立ち、海外旅行の普及や旅行市場の裾野の拡大に一役買った。80年代から90年代のバブル崩壊までは、世界を席巻した日本企業が旺盛な出張需要を背景に相次いでインハウスエージェントを設立。その勢いそのままに、業務渡航だけでなくレジャー旅行にまで手を広げ、積極的に取り組んだインハウスも多かった。

 その後、2000年代に入るとインターネットの普及を背景にオンラインビジネスとしての旅行業に注目が集まり、IT 系・EC 系のソニーや楽天、ヤフー、DeNA などが旅行事業に進出することになる。しかし、その後の海外旅行市場の伸び悩みや過当競争による収益率の低下傾向により、もうからない業種の代表格となってしまった旅行業への新規参入は停滞し、むしろ撤退企業の方が目立つようになっていった。再び旅行業への参入が活発化するのは、訪日外国人旅行者の急増に伴いインバウンドビジネスへの注目が高まってからのことだ。

 2000年代半ば以降から10年代にかけての新規参入の特徴は、観光立国を推進する行政サイドの政策に呼応した参入が目立ったことだ。政府は全国各地で観光立国を推進し、なおかつ“脱大量送客”という時代のニーズに見合った旅行ビジネスを根付かせるため、小規模旅行事業の規制緩和を推進。地域の旅行事業への参入を促した。07年には第3種旅行業者に対する規制緩和を行い、12年には旅行業法改正により地域限定旅行業を新設した。さらに18年にも業法を改正し、第3種旅行業者と地域限定旅行業者の要件を引き下げた。

 こうした規制緩和により、地域における観光拠点でもある宿泊業者が旅行業登録を取得し、サービスの一環として滞在中のアクティビティーを提供する試みが始まった。また、地域の観光協会、道の駅といった旅行関連の団体や事業者が旅行業登録をして自ら開発した着地型旅行の商品開発や販売に乗り出す動きが広がった。

 規制緩和に伴う動きとは別に、多様な分野からの旅行業参入も目立つようになったのが10年代半ば以降だ。たとえば、エンターテインメント分野からの進出。ミュージックエンターテインメントを手掛けるエイベックスは16年にエイベックス・トラベル・クリエイティヴを立ち上げてアーティストが提供するライブ等を活用した旅行ビジネスをスタートした。プロ野球球団の北海道日本ハムファイターズも、現在は実質的に休眠状態だが、15年に旅行事業に参入し、ファン対象の旅行事業に乗り出した。エンターテインメント分野は、最近では放送事業のWOWOWグループが19年3月に旅行業第1種登録を取得し、今年から「WOWOW トラベル」を開始した。

 また、16年にはテレビ通販のジャパネットグループが参入しており、18年にはEC サイト運営のDMM.com もテクニカルビジットや学びの旅を中心とした旅行ビジネスに参入。人材関連事業のマイナビは16年から旅行業に参入し国内旅行サイト「マイナビトラベル」を運営してきたが、昨年から国内業務渡航分野にも進出し、BTM サービスを強化している。

 旅行とは縁のない関西電力も、新規事業強化の一環として旅行業に進出。19年12月に海外旅行事業会社「TRAPOL(トラポル)」を設立して、サイト上でガイド役を務める現地市民と旅行者をマッチングする旅行サービスを開始している。

【続きは週刊トラベルジャーナル20年6月1日号で】

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