ドイツ政府の気候変動対策「飛行機は高く鉄道は安く」
2019.11.25 00:00

9月23日の国連気候行動サミットでドイツは地球温暖化ガスの排出を2030年までに1990年比で55%、2050年までに実質ゼロに削減する目標をアピールした。環境活動家グレタ・トゥーンベリが各国首脳に表した怒りはニュースになり、国連事務総長は閉幕に当たり77カ国が50年までにCO2排出量をゼロにする決意を示したと発表した。日米中はこの中に入っていない。
サミット前の9月19日夜に具体的な気候変動対策を決めるべく開かれたドイツ政府の閣議は延々16時間に及んだ。20日の「未来のための金曜デモ」はベルリンをはじめ多くの都市で起こり、参加者は140万人に膨らんだ。この動きに閣議はかなり動かされたようで、閣議後の財務大臣の発言からそれがうかがえた。結果として65項目にわたる気候変動対策パッケージ2030が決定され、メルケル首相がこれをサミットに持参し発表した。
内容には産業界から賛否両論あり、不十分との声が多い。特に21年の二酸化炭素価格付け導入に賛同するものの1トン当たり固定価格が低すぎて効果が疑問視されている。勢いのある緑の党や世論に影響を及ぼすドイツの「未来のための金曜デモ」は、この対策はゼロエミッションを掲げるドイツの破産宣言だとし、抜本的見直しを迫る。
観光に関連する運輸セクターの施策は15項目あり、30年までにCO2排出量を1990年比で40~42%削減することを目標に定め、クリスマスまでのスピード法制化を目指している。電気自動車普及、CO2排出量をベースにした自動車税等々あるが、メディアの見出しを賑わした項目は「飛行機は高く鉄道は安く」だった。航空税を引き上げ、鉄道運賃の付加価値税を下げる施策だ。
20年4月1日からドイツ国内便およびドイツ発EU域内便(2500㎞まで)の航空税を76%、中距離および長距離では43%増税し、特に短距離の空の利用抑制を意図している。一方、鉄道運賃は現行の19%の付加価値税を7%に軽減し、設備やサービスにも十分投資して鉄道利用を促進する。鉄道運賃減税で政府の税収は5億ユーロ減るが、航空税については7億4000万ユーロの増加が見込まれ、これを充当する。
この施策にルフトハンザ・ドイツ航空は、「航空税の増税はドイツの航空業界の競争ポジションを弱体化し、未来への投資を持続不可能にする。すでにドイツほど航空税や諸税が高い国はなく、航空セクターでCO2を削減するオプションは最新機材の購入と新燃料開発で増税は大きな問題」とコメントしている。同様にドイツ航空業協会(BDL)は、「航空税増税はドイツの単独行。ドイツの航空会社と空港の競争力を大幅にゆがめるものであり企業の投資力を法で弱める政府の決定は間違っている」と大反対している。
ドイツ旅行業協会(DRV)は目前の負担増に危惧し、国会議員を動かすメール作戦を開始した。増税発効日以降に出発する春と夏の旅行予約がすでに多数入っており、売価には増税分は含まれていない。増税となれば、旅行会社が負担させられる可能性が大きく、協会は業界で働く人々にすでに受けている旅行予約には課税しないよう地元国会議員に陳情メールを送るよう促している。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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