国民の休日

2024.06.10 08:00

 コロナからの解放後、初めて迎える大型連休では各地で混雑が見られ、ようやくにぎわいが戻ったとの報道も多く、一安心した関係者も多かったことだろう。しかし、地域や業種によっては期待したほどの回復が見込めなかったとの声も聞こえてくる。町内の人たちに聞いても「混雑しているのに無理して出かけなくても」「物価も上がっているので節約」などの理由で、自宅周辺のみで過ごしたという回答が多かった。

 確かに一昔前と比べ、休日に対する意識は大きく変わったという現実は否めない。在宅勤務や有給休暇取得も働き方改革で当たり前になり、休日の調整も比較的自由になった。少子化も進み、子供の都合最優先で出かけなければならない家庭の比率も減った。ということは、国民を長期間休ませ、こぞってレジャーに駆り出そうという大型連休の設定がもはや「おせっかい」になりつつあるのではないか。

 そもそも日本の祝日が先進国で最多だという。「みんなが休んでいる時なら自分も休める」「みんなが出かけるなら自分も出かけなきゃ」という国民性がいまも根強く残ることは否めないが、国家が国民の休日を誘導するスタイルが今後も支持されるとは考えづらい。

 十数年前、休日分散化の議論が盛り上がった。ゴールデンウイークとシルバーウイークを地域ごとに分散させようとするもので、法改正に向けた試案をまとめるところまで話が進んだが、反対も多く立ち消えになった。かくいう私も反対の声を上げていた。地域をまたぐ旅行ではシーズナリティーの混乱を招くことや、異なる地域で暮らす家族や友人との旅行が成立しなくなること、人気の観光施設や宿泊施設が飽和することでその他の施設にも集客が行き渡る地域のトリクルダウン効果がなくなることなどが理由だった。

 そしていま、休日分散化に対する私の評価は以前とは違う意味で微妙だ。国による休日誘導であることは変わらず、そのバリエーションを増やしても本質的な休み方の改革にはつながらないからだ。

 とはいえ、混雑緩和を目的に国民の休日を変化させるべきという休日分散化の理念はいまこそ大きな意味を持つ。最も気になるのはやはりサービス業の人不足だ。連休に増えるお客さまをこなすため、社員はフル出勤、臨時バイトや派遣社員をかき集めて人海戦術で乗り切るという力業が通用しなくなっている。

 コロナ禍で席数を減らしたり稼働を抑えたりすることで、満席・満館を追い求めなくなった施設も増えた。年に何日かの書き入れ時のために労務にも設備にも負担をかけたくないと考える経営者は確実に増えている。

 道路などのインフラについても少し考え方が変わった。今後人口減少が確実視されるなか、地方では自動車の総数も減っていく。年に何日かの混雑のために田舎の道路を片側二車線に増強し、駐車場やトイレを増やすことに巨費を投じることは確実に無駄な投資になる。

 需要を集中させ過剰に人流を生み出し、混雑させることで経済を活性化させる時代から、年間を通して安定した集客で事業者の効率と顧客の満足度の最大化を図ることが今後しばらくのトレンドになるのは間違いない。

 当時、休日分散化で目指した需要の平準化効果をこれからの時代に得るためには、コロナ前とは異なる政策、例えば以前本欄でも書いたワーケーションやラーケーションなども含め、国民の休日のパーソナライズ化を進めることが必要だ。休み方を考えることで観光の新しい姿が見えてくるだろう。

永山久徳●下電ホテルグループ代表。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。東急不動産を経て下電ホテル入社。全旅連青年部長、日本旅館協会副会長、岡山県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長などを歴任。SNSやメディアを介した業界情報の発信に力を入れている。

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