地方の植民地化
2024.05.20 08:00
日本の有名観光地が植民地化しかけている。外資が土地を買いあさるとか、インバウンドが集中している側面もあるが、それだけではない。豊富な内部留保と海外投資だけでは資金を使い切れない日本の大企業が、地方観光地の不動産投資に傾斜している。それが過疎地域への社会的投資なら理解できるし応援したい。そうではなく、地方創生という御旗の下、誰もが知る有名観光地の不動産にこれでもかというほど集中投資している。
その結果、何が起きているか。中央の大企業社員と地方に住むエッセンシャルワーカーの格差であり、地方の破壊である。ニセコでは、町外からの投資の増加により外資系を中心にホテルが乱立。人手が足りなくなった結果、時給が跳ね上がり、介護事業者から人手が奪われ、事業所が閉鎖に追い込まれるというニュースがあった。京都もしかり。バスに乗り切れないという話題は毎日のように発信され、学生の住める家賃のアパートもなくなり、京都市は日本一の人口流出都市になった。
地価が上がれば土地所有者はここぞとばかりに売って出ていく。投資家は潤い自治体の税収も増える。これが地方創生なら私の理解が誤っていた。
新しく建った超高級ホテルには、外国人が押し寄せるだけでなく日本の大企業サラリーマンも訪れる。生産人口減少が海外でも始まり、人材を国内で自給しなくてはならなくなった背景もあり、大企業の給与アップが続く。夫婦ダブルワークが当たり前になり、大企業社員の世帯年収は若くして早々に1000万円を超えるようになった。
観光消費に目を向けた時、誰もが旅行先をSNSで探して決めるので、より拡散される観光地へ人が押し寄せ、高級ホテルへと吸い込まれていく。有名観光地に投資した事業者は笑いが止まらない。
だが、これらの経済循環は外資と大企業による地方の破壊であり、地方創生ではない。わずかに残った地方の人材を奪い合い、介護報酬で給与が定められたエッセンシャルワーカーを締め出し、住民が住み続けられない町にしていく。有名観光地の不動産に投資し、大量集客して地上げするバブル経済の手法はもうやめていただけないか。地方に投資するなら、人口の社会増をもたらすことで地域産業の再生や創造をもたらす過疎地への社会的投資ができないものか。
もちろん、過疎地では儲からないし、利益を出すまで時間がかかる。そもそも人口減少がはなはだしく、若い人材が地元では確保できないので、社員を都市から連れていかなくてはならない。しかし、都市の生活や刺激に慣れ、人脈のできた社員は地方には行きたがらない。そうした課題に目をつむることが地方創生ではなく、単なる地方の植民地化だということに気づいてほしい。
いつかバブルははじける。今回は人手不足が投資企業の足元をすくうのではないか。投資の集中は地方から人を追い出していく。
井門隆夫●國學院大學観光まちづくり学部教授。旅行会社と観光シンクタンクを経て、旅館業のイノベーションを支援する井門観光研究所を設立。関西国際大学、高崎経済大学地域政策学部を経て22年4月から現職。将来、旅館業を承継・起業したい人材の育成も行っている。
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