かくどをつけて
2024.01.22 08:00

大変な新年の始まりとなった。元旦の夕方にあれだけの地震が日本を襲うとは。コロナ禍が明けて初めての年末年始。多くの帰省客、観光客が久しぶりの制限のない移動や久しぶりに会う大切な人との時間を楽しんでいた矢先の出来事。加えて翌日の羽田空港での事故。人が動くことを制するかのごとく現れる神の見えざる手。テレビ映像に震撼するだけでなく、その理不尽さ、無念さをどこにもぶつけることのできないやるせなさを抱きながら24年が始まった。
本稿を書いているのは1月5日。能登半島を中心に犠牲者と安否不明者は日々増えており、被害の全貌把握すらできていない。羽田の事故は現場検証が終わり当該機の残骸の撤去が始まったところで、年始で三連休というピークにもかかわらず今日も200便以上が欠航している。
それでもこうした災害や事故に対して、これまでの多くの経験から得た教訓が見た目は小さくとも大きな変化をもたらしている。東日本大震災の時はまだLINEすらなく、SNSを使う人は限られていた。正しい情報を得ることに苦労し、被災状況や避難している方を把握するのに多くの時間を要した。
いまではスマホで写真を撮影すれば地図上にその位置が表示され、道路の不通区間もデジタルで可視化されている。日本航空は過去の事故やインシデントを経てブラッシュアップされたオペレーションで、あれだけの事故でも旅客機の人的ダメージをほぼゼロに抑えた。多くのフライトが減便するなかで、新幹線の臨時列車が整然と設定されてその穴を埋めている。
一方で無慈悲にネットの空間に流れる情報の渦。うそやデマ、まるで当事者や専門家のごとく振る舞うコタツ評論家が大量発生する経験はかつてなかったことだ。その情報の渦から正しく有益なものを見つけて動くことがとても難しくなっていることを実感する。
東北というだけで被害がほとんどなかった秋田や山形へ行く人も全くいなくなり、旅はおろか花見や宴会まで自粛ムードが日本中に漂っていた13年前。それを思うと、この3月16日に福井・敦賀への新幹線開業を迎える北陸の皆さんは気が気ではないだろう。私たちは大丈夫、と言っていいものなのか。観光で地域を元気に、と言うタイミングはいつなのか。経験と教訓だけでは計り知れないさまざまな変数を取り込みながら、しかし前に進むしかない。その担い手には多くの地域の若者に関わってほしい。
人は1年に1歳、必ず年を取る。その間のちょっとした変化にどのくらい気づけているか。コロナ禍でまるで何もかもが止まっていたような時間でも新たな技術やサービスが世に生まれ、有益なものは社会に実装されて定着した。若者は大幅に減ってはいるが、また新たなプレーヤーとして毎年社会に出て活躍し、新しい価値を作り出している。その新しい価値という変数が、過去の経験、いわんや栄光という名に阻まれ、不要な溝やバグを作り出してはいないか。変化に敏感に、と言う人が実は鈍感だったりはしないだろうか。
毎年成長する若者にとってみたら、1年たっても何も成長しない人との差はぐんぐん離れ、やがて見えないほどの点にしかならない。だから一生懸命少しでも角度(かくど)をつけて自らも成長しようと思わなければ年を取る意味がない。過去の経験と教訓には学ぶべきことは多いかもしれないが、学びの仕方も使い方も昔とは違う。
10年前、いやひょっとしたら1年前と同じロジックでものを考えていたとすれば、もう人の上に立つ資格はないのかもしれない。そう少しおびえつつ気を引き締める年に。自戒を込めて。

高橋敦司●ジェイアール東日本企画 常務取締役チーフ・デジタル・オフィサー。1989年、東日本旅客鉄道(JR東日本)入社。本社営業部旅行業課長、千葉支社営業部長等を歴任後、2009年びゅうトラベルサービス社長。13年JR東日本営業部次長、15年同担当部長を経て、17年6月から現職。
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