ストレスフリー
2024.01.15 08:00
コロナ後ようやくヨーロッパに出張する機会を得た。現地語もままならず、初めて訪れる地で単独での移動も多く不安だったのだが、意外なほどストレスなく目的を達成できた。そこには観光インバウンド先進国として各国のさまざまな工夫があったからだと感じた。
今回最初に訪問したのはイタリアのローマだったが、私は空港から市街までの移動方法を深く考えていなかった。どうしようかと思慮しながら入国し、ゲートを出ると真っ先に目に付いたのが「ROMA→」という表示だ。「市街に行きたけりゃとにかくこちらに歩きなさい」ということだ。
表示に沿って歩くその道中で「BUS→」や「TAXI→」の表示が追加されルートが分岐し、「TRAIN」に従って歩くと高速鉄道の乗り場に行き着く。チケットをクレジットカードのタッチ決済で購入し(これも初期画面は「ROMA駅」と「それ以外」の二択なので迷うこともない)、15分おきに発車する鉄道に乗り、とりあえずローマに向かうことができた。
案内表示なんてどこの都市でもそんなもんじゃないのかと思う人もいるだろうが、外国人が予備知識なしに日本の国際空港に到着した場合を想像してほしい。タクシーやバス乗り場、駐車場の案内がばらばらの場所に掲示され、それぞれ異なる方向を示し、ひどい場合は行き先の方面別に複数の乗り場が設定されている。
鉄道に至っては複数の鉄道会社がそれぞれの乗り場まで独自の看板で誘導しているが、行き先はそれぞれの改札近くに行かなければ分からない仕組みだ。いくら多言語で併記しても、どの交通機関を選び、どの車両に乗れば最も効率良く目的地に行けるのかという肝心な情報を瞬時に得ることは難しいだろう。
もちろん空港にはコンシェルジュも配置されているし、時刻表や掲示物を丁寧に読めば必要な情報は手に入る。しかし、慣れない訪問者にとっては読むこと、聞くこと自体がそれなりのストレスだ。特に日本の注意書き文章はただでさえお詫びや理由から入っていることが多く、本題までが長く要点がつかみづらいものを直訳していたりするからさらに大変だ。
例えば羽田空港に着いた外国人が鉄道で都心に向かう場合、彼らはまずモノレールか京急線のどちらが良いかを調べ、浜松町や印旛日本医大や逗子葉山などの方面表示の中から目的地へのアクセスの良い便を選択する必要がある。もちろん、電光掲示板の表示では乗車に失敗しないための注意文が多言語で表示されているし、アナウンスでも「この電車は東京方面には参りません」などと連呼している。しかし、これは行き先表示をローマ流に「TOKYO→」などと表現したとすればほとんどの外国人はとりあえず安心して乗車できるはずだ。
ちなみに地名まで執拗に多言語表示にこだわるのも日本独特だ。「TOKYO」が読めない中国人や韓国人旅行者がいるのだろうか。多言語表示には他の情報が減ったり、視認性が落ちたりするデメリットもある。「印旛日本医大」を4カ国語で表示することに意味がないとはいわないが、少なくとも読み方が分かるローマ字表記で十分だろう。
旅行者へのホスピタリティー意欲は十分に旺盛であるのに、事細かな情報を正確に伝えるために情報過多になりがちな日本と、とにかくストレスフリーで移動してもらいたいという思想が見えるイタリア。入国時点でインバウンド受け入れに対する考え方の違いを見せつけられた。旅行記のつもりが、到着空港を出るまでで行が尽きてしまったので続きは次回以降で。
永山久徳●下電ホテルグループ代表。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。SNSを介した業界情報の発信に注力する。日本旅館協会副会長、岡山県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長を務める。元全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部長。
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