オーバーツーリズム再燃 地域の打ち手とは

2023.11.20 00:00

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観光客の急速な回復に伴い、オーバーツーリズムの問題が各地で再燃している。一部の地域や時間帯への過度な集中により、マナー違反やごみの散乱など、地域が影響を受けている様子はいつか見た光景だ。コロナ禍を機に責任ある観光への社会的関心は高まったかに見えたが、現実の姿は違って見える。

 岸田文雄首相は10月23日の所信表明演説で「観光は地域振興のエンジン」としたうえで、「オーバーツーリズムの問題も顕在化している。持続可能な観光業に向けた対策に着手する」とオーバーツーリズムを国の課題に挙げた。背景にあるのは旅行需要の急速な回復だ。

 日本人の国内宿泊者数は9月に延べ4074万人泊で19年同月を0.6%上回った。そこにコロナ下ではほぼゼロまで落ち込んだインバウンド需要が急回復。同月の訪日外国人は218万人でコロナ前の約96%と同水準に戻った。渡航規制で回復が遅れた中国を除けば28%増という勢いだ。1~9月の累計は1700万人を超え、コロナ禍前の水準をおおむね回復している。円安傾向も相まって、今後インバウンド需要は増大し、オーバーツーリズム発生の圧力も高まり続けると予想される。

 岸田首相の宣言に先立つ10月18日にはオーバーツーリズムの未然防止・抑制に向けた対策パッケージが閣議決定された。関係省庁の対策会議でまとめたもので、各地域が取り組む対策を国として総合的に支援していく方針を示した。

 対策パッケージは大きく3つの柱で構成され、①観光客の集中による過度の混雑やマナー違反への対応、②地方部への誘客の推進、③地域住民と協働した観光振興に分けられる。ただ、このうち特に地方への誘客促進は、11のモデル地域に消費単価の高い外国人旅行者を誘致する施策など、すでに取り組んでいる施策を反映したものだ。混雑への対応でも、環境省のエコツーリズム推進法に基づく入域規制など既存の制度が示された。

 一方で、制度の運用を弾力化して新たに取り組む施策もある。多くの観光客が利用して混雑が激しい路線では、観光スポットへの急行バスの運行がしやすくなるよう、届け出制で機動的に運賃設定を行える規制緩和を進める。またオフピーク定期運賃など通勤時間帯の鉄道の混雑緩和対策で導入されている変動運賃の制度を、観光客による混雑緩和にも適用できるよう、今秋中にも弾力的な運用の実施を目指す。マナー違反行為の防止や抑制の観点では、今年度中をめどに訪日外国人旅行者にも分かりやすい統一ピクトグラムを策定し、旅行ガイドブックへの掲載を通じて周知を図る。

 観光庁は各施策の事例集を取りまとめ、地域が参考にできるようにする。自治体からの相談窓口も設置した。複数の施策を組み合わせて対策を講じたい地域には積極的に手を挙げてもらい、先駆モデルとして約20地域を包括的に支援する。

 観光庁の濱本健司参事官(外客受入担当)は、「オーバーツーリズム対策はこれをやれば解消されるというものではない。やってみてブラッシュアップするなどしかないのではないか」と話し、そのために既存施策も合わせて幅広く示す必要があるという考えだ。「地域によって状況は異なり、どういう姿になりたいかは地域が考えること。それに応じた施策を講じていただくために支援していく」(同)

人口17万人の街に2000万人

 実際、地域側は現状をどのように受け止め、どんな対策を講じていこうとしているのだろうか。

 鎌倉市は全国的に見ても面積が狭く人口も約17万人と比較的小さな市だ。しかし東京からの近さもあって観光客人気は高く、人口の100倍以上の年間約2000万人もの観光客が押し寄せる。しかも鶴岡八幡宮をはじめとする人気スポットの多くが鎌倉駅を中心とする狭いエリアに集中し、混雑しやすい条件がそろう。昔ながらの狭い道に観光バスや車がひしめき慢性的な渋滞を引き起こす。公共交通機関も駅や時間帯によっては観光客に占領され、通勤・通学に支障が生じるほどだ。

【続きは週刊トラベルジャーナル23年11月20日号で】