かぞえてみよう
2023.11.13 08:00

5年くらい前には言葉すら存在していなかった観光DXがあちこちで語られるようになった。チーフ・デジタル・オフィサーという物珍しい肩書もあって、近年はさまざまな場所で観光DXの話をする機会が増えた。
コロナ禍がもたらした数少ない福音は、デジタルの必要性が叫ばれてもからきし進まなかったデジタルトランスフォーメーションが、人との接触を避けるという別の文脈から必要不可欠となり一定の浸透を見せたことだろう。観光施設の入場やイベントは何事も予約をするのが基本になり、現金払い一辺倒だった地方の商店や飲食店、タクシーもクレジットカードはともかくQRコードの電子決済であればかなり導入が進んだ。
対面と自筆を法律で強いていたはずの宿泊施設のチェックインも、ある意味なし崩し的にペーパーレス化、自動化が進む。導入期にはかえって行列を延ばしていただけの日本入国時のデジタル手続きも一定の時間を経てチューニングされ、徐々にストレスを感じなくなりつつある。JRの外国人向け「ジャパン・レール・パス」も値上げと流通方式の見直しとの引き換えに専用サイトでの直接販売、指定席の予約が簡単になった。海外と比べてほとんどデジタル化が進んでいなかった自治体やDMOのプロモーションも変化し、動画とSNSがスタンダードになった。
そしてAI(人工知能)の登場。最近流れ始めた伊藤園のCMは本物ではなくAIで生成したタレントを使用し広告業界に衝撃を与えている。先日幕張メッセで行われたIT博覧会CEATEC(シーテック)のシンポジウムでは、日本語の会話がAI翻訳でほぼリアルタイムに英訳されてスクリーンに表示され、そのスピードと正確さには驚いた。実は私もこの原稿を初めて音声入力で書いているが、少なくとも自分の考えをまとめてしゃべっている限り、ほぼ誤字もなく時間もかからず書き進んでいく。
これまでテクノロジーはいつも人間の英知を超えそうに見えて、それを使う人間の限界を超えることはなかった。それがついに超えそうな、なんともモヤモヤした時代に突入しているという実感。使いこなすもこなさないも人間次第というレベルではもはや語れないほど、いまやデジタルはわれわれの先を行っている。
そんな中での観光DX。私は技術者ではないのでテクノロジーの話はしない。むしろ「DXその前に」ということを常に伝えるようにしている。デジタルは単なるツール、デジタルでどのように仕事を、地域をトランスフォーメーションするかがDXというのは誰もが言うことだが、実は地域創生の現場では「ではまず何をすれば?」が分からないということをよく聞く。
答えはまず数えること。データは数えたものの集合体だ。数えたものが多ければ多いほどリッチになる石油みたいなもの。そしてデジタルはさしずめそのデータを集め加工する掘削機械。来た人の数、使った人の数、リピーターの数、それに要した人の数、時間、とにかく何でも必要そうなものを数えてみよう、と話をしている。別に数えられるならば手で数えてもいい。そして手で数えることができなくなったら、カメラでもビッグデータでも数えてくれるデジタルツールを入れればいい。この考え方ができていない地域が多い、何を数えるのかも分からずに高いデータやデジタルツールを導入しただけで、まるでハコモノ行政のデジタルバージョンになっている事例も多い。
これまで勘と経験と思い込みでやっていたことのすべてを数えてみる。その数字をじっくり見る。聞き慣れない横文字のサービスを入れるかどうか決める前にまずは数(かぞ)えてみよう。

高橋敦司●ジェイアール東日本企画 常務取締役チーフ・デジタル・オフィサー。1989年、東日本旅客鉄道(JR東日本)入社。本社営業部旅行業課長、千葉支社営業部長等を歴任後、2009年びゅうトラベルサービス社長。13年JR東日本営業部次長、15年同担当部長を経て、17年6月から現職。
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