『読んで旅する海外文学』 プロの選書は観光業界人の参考書にも

2023.10.23 00:00

重松理恵著/大月書店刊/2200円

 “地域を知るためのブックガイド”は海外ガイド本の定番ページだ。渡航前には私もチェックするし、大学時代、教授に言われた「海外に行く時は、なんでもいいからその国に関する新書を1冊持ってけ。知識が確実に増えるから」という言葉をいまも守っている。

 タイトルからして、そんな感じの1冊かと思ったら違ったのだった。

 ワーホリでオーストラリアに行ったものの、無口で人見知りな性格が災いし、英語や世界一周旅行の夢に挫折した著者。だが帰りの機内で「たとえ実際に行かなくても、世界一周はできる。むしろ世界一周した人より、その国のことを知ることができる」と、読書での世界一周という発想を得る。実はこの方、大学生協で書籍の仕入れ・販売を担当し、『東大生の「本の使い方」』という著作もある筋金入りの書店員。取り組み方も選書も“ガチ”である。自らにルールを課し、納得する3タイトルに出合うまで読書を続け、数合わせのための決定はしない。有名な文豪の古典名作はできるだけ選ばない―。

 わあ、大変そう。

 英米以外の海外モノは翻訳されている作品に限りがあるし、実際予想以上に苦労されたそうだが、結果として大充実のブックガイドがここに完成した。

 取り上げられているのは韓国・台湾・タイ・インド・トルコ・ロシアなど24地域。ミステリ、ノンフィクション、純文学と内容は幅広く、知らない本がずらりと並びワクワクする。マレーシアの『きのこのなぐさめ』、エジプトの『地図が読めないアラブ人、道を聞けない日本人』、ドイツ『謝罪代行社』などなど、気になる本もいっぱいだった。添えられた著者本人の旅行記も真面目で誠実な人柄が伝わってくる。業界人の参考書の1つにどうぞ。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。

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