欧州のクルーズ船公害問題
2023.09.11 00:00
欧州ではクルーズ業界挙げての対策にもかかわらず、昨年の硫黄酸化物排出量が乗用車の4倍となり大気汚染の原因になっているとフィナンシャル・タイムズ(FT)が伝えた。環境団体トランスポート&エンバイロメント(T&E)の調査では、22年に欧州で運航した218隻のクルーズ船の硫黄酸化物排出量は計509トンでコロナ前19年の465トンを上回った。国際海事機関(IMO)が20年に導入した船舶燃料の硫黄含有量上限規制により消費燃料1トン当たり排出量は減少したものの、船客数がコロナ前水準に回復しないなか、クルーズ船が数十隻増えたため総排出量が増えたのだ。
硫黄酸化物は酸性雨をもたらし、喘息や肺気腫などの呼吸器疾患を悪化させる可能性がある。欧州港湾都市で最大の影響を受けたバルセロナでは、22年は計805回のクルーズ船寄港で18トンの硫黄酸化物が大気中に放出された計算になる。T&Eの調べでは、19年以降、呼吸器疾患と肺がんに影響ある亜酸化窒素とPM2.5の欧州の主要港湾都市における排出量はそれぞれ18%と25%増加、クルーズ船の影響を指摘する。T&Eは大気汚染の改善に焦点を当てることは空気には良い半面、生物多様性と気候変動に課題もあるとする。
クルーズ業界は環境関係の規制当局、政治家、活動家から非難され、現実にマヨルカ島、マルセイユ、ドブロブニク、サントリーニ島などの港湾都市で規制を受ける。注目すべきはベネチアで、世界遺産としての地位を維持するため21年に2万5000トンを超えるクルーズ船入港を禁止した結果、硫黄酸化物が80%減少した。バルセロナもクルーズ船の寄港規制に動いている。数時間だけ寄港する間、乗船客がサグラダ・ファミリアなど有名観光施設のみ観光して船に戻るため、地元に貢献しないからだ。
クルーズライン国際協会(CLIA)のローレン事務局長によると、業界は持続可能性の向上に強くコミットし排出規制を順守。寄港中に船の燃料を使わずに済むよう陸上充電技術に投資する。
フロリダに本社のあるカーニバルクルーズラインの63隻のクルーズ船は、全欧州の乗用車より43%多くの硫黄酸化物を排出する。環境汚染で19年に2000万ドルの罰金を米国で科された同社は、船の全容量が30%増えたにもかかわらず、11年以降に温室効果ガス排出量を削減した唯一の大手クルーズ会社であると主張する。
しかし国際クリーン交通委員会(ICCT)は、環境改善のためのクルーズ業界の努力はまだ不足しており、逆に事態を悪化させたと指摘。IMOの規制の結果使用される排ガス浄化装置が海洋生物に危害を与えるため、欧州のすべての港が同装置の使用を禁止するよう求めている。大気汚染対策として燃料を重油から液化天然ガス(LNG)に転換するクルーズ業界の戦略についても、LNGは従来の80倍の温室効果ガスを排出すると批判する。ICCTの対案は環境のためにクルーズ業界は水素など新しい燃料源開発に焦点を当てるべきという。自動車同様、船も水素に頼ることになるのだろうか。
平尾政彦●1969年京都大学文学部卒業後、JTB入社。本社部門、ニューヨーク、高松、オーストラリアなどを経て2008年にJTB情報開発(JMC)を退職。09~14年に四国ツーリズム創造機構事業推進本部長を務めた。
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