コロナ後の売れ筋 時代が求める旅の気分
2023.09.04 00:00
コロナが5類に移行して数カ月がたち、日本人の生活が日常を取り戻し始めている。JTBによると今夏の国内旅行は人数・消費額とも19年を上回る水準。では、コロナ後の時代が求める旅の気分とはどのようなものだろうか。旅行業者の売れ筋から探ってみた。まずは消費の概観から。
満水になったダムの水が一気に放水されたように観光消費がほとばしっている。いわゆるコロナストレスへのリベンジ消費だが、この流れは1年ほどで終息して観光消費は基本的なトレンドを再構築していく。新トレンドは従来の雑多な枝葉が整理されて基礎的・基本的な動向を示し、強力だ。
リベンジ消費は飢餓から解放されたいという欲求なので、食料ならなんでも手当たり次第に口に頬張る。観光も同様に人間が生きるための基本素材だから欠乏への反動は強い。現在のリベンジ消費の特徴はマーケティングを拒否していることだ。ターゲットの細分化も消費目的分析も不要で、資金力の大小にのみ従ってどのような観光にもあらゆる層が食いついている。このような状態での観光マーケティングは何でもよいから目立つ企画を打ち出すことで、そうすれば必ず当たる。それほどリベンジ消費はすざましい量を伴っている。しかし残念ながらこの消費は1年ほどで終息して、その後は新しく基本的なトレンドが姿を現わす。
コロナ前には観光需要は成熟の道をたどり、いくつもの細分化したトレンドを示した。それは単なる物見遊山から知的な時間消費を求める方向へのシフト、過剰な消費文明の拒否、地球環境への寄り添い、余生の充足など一様に成熟度を高めるように見えた。そこへコロナとそのリベンジ消費が噴出し、成熟お花畑トレンドはご破算になった。
しかし、その後に来るトレンドを予想するのはそれほど難しくない。従来の雑多なトレンドの枝葉が取り払われ、人間社会の基本的な消費構造に立ち返るからだ。今後の観光需要の基本構造は、横軸に資金余裕度の大小をとり、縦軸に観光の知識情報量の大小をとった4つの側面で説明できる。
資金のある・なしはあらゆる現代人の消費行動の絶対的な指標だが、いままでの観光マーケティングはなんとなく平均的な資金層をボリュームゾーンに設定して、そこに照準を当てることで商品造成してきた。高額商品造成がいま流行しているが、それはボリュームゾーンの質を一部で高額にした特別商品という考え方だ。しかし、今後は資金余裕層と非余裕層を形も質も峻別して、全く異なる商品戦略をとることが必要になる。
知識情報量の大小はかつてはデジタル層とアナログ層に分けて前者は若者を中心ととしたOTA、後者は高齢者をターゲットとした窓口業務と考えていた。しかしこの概念は崩れた。若年層でも観光・旅行情報に疎い層が相当数存在し、高齢層でもPCやスマホを駆使して独自の旅行を組み立てる能力者がかなりの層をなしている。
リベンジ需要ではスマホ片手に旅行会社の窓口を訪れる若者が目立つ。彼らはそもそも「どこへ行ったらよい観光を得られるか」を知りたがる。逆に2拠点生活やノマドライフを楽しむ熟年が増えている。知識情報量の多寡は好奇心の強度に従うもので、その人の知的欲求の高低に比例する。
観光消費の4側面
まず資金余裕度も知識情報量も大きいぜいたく嗜好層。飛行機はファーストクラス、宿泊は高級旅館や高級ホテルを日常化する層だ。「今後は海外からの高額消費客をターゲットにすべき」と高額宿泊施設や高額サービスが次々に登場して、青森ねぶた観覧席が100万円、仁和寺宿泊が100万円と話題を振りまいている。所得の2極化拡大に伴ってプレミアム観光・旅行のすそ野はさらに広がり、日本では未開拓な分野だけに今後は確実に太いトレンドを形成する。
茶谷幸治●ツーリズムプロデューサー。「南紀熊野体験博」「しまなみ海道’99」「長崎さるく博」「大阪あそ歩」などの総合プロデューサーを務め、一貫して地域・住民主体の地域活性化イベントを主導。著書に『まち歩きをしかける』(学芸出版社)ほか。
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