無駄の効用
2023.02.27 00:00
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長年IT業界にいるとバーチャルが当たり前で、なんの抵抗もなくなってくる。さらに近年のパンデミックにより、オンライン会議がより一般的にもなった。出張が多い私にとっては、コロナなのでと実に都合のよい言い訳ができ、会社としても経費も節約でき、いいことづくめに思えた。が、果たしてそうなのだろうか。
通常、リアルでなければならない場面とは、いわゆる膝を突き合わせる必要性がある場合であり、本質的な問題の解決、最終的な合意形成、あとは儀礼的な記念式典、冠婚葬祭などがある。
バーチャルの功罪を整理してみよう。まず良い面から列挙してみると、時間・空間の制約がほぼなくなる、コストが安く済む、ギリギリまで他のことに時間が使える(移動時間が不要)など、実にありがたいことばかりだ。
逆にデメリットとしては、相手の感情が見えにくく、ちょっとしたシグナル、つまりため息や視線の移動などをリアルほどしっかり把握できないことに加えて、無駄から生まれる価値が期待できないことも意外と痛い。つまり、ちょっとした休憩時に雑談するチャンスがオンラインだと生まれにくいのだ。要点だけでさっさと会議を終わらせる傾向がバーチャルにはある。
これは一方で良いことではある。欧米的な会議手法でもあり、私もこの4年間で徹底的に学んだ。彼らの会議は必ず30分以内で、目的つまり決議事項がない会議はたとえ予定されていても始まる前に躊躇なくキャンセルされる。
一見無駄に見えることが無駄ではない。これはあらゆることに当てはまる。人間は思っていることをそのまま言わないからだ。まれに、なんでもそのまま言う人もいなくはないが、たいていの人は相手にそうたやすく本心は伝えない。プライベートならそれも自然だろうが、ビジネスとなってくるとちょっとやっかいだ。どこに本心があるのか、それを探る時間が互いに無駄に経過するのは実に非効率である。
そんな時、この無駄に見えるリアルの会議は実に役に立つ。まずアポの日程決めの段階から相手の本気度に察しがつくし、始まって早々の態度にはほぼ本心が見え隠れしている。それをしっかり把握したうえで会話を交わしていけば、かなりの精度で本音にたどり着ける。これはバーチャル会議ではなかなか難しい。
話は変わるが、最近個人的な売買でネットで知り合った人と会う機会が2回あった。初めから怪しさ満点だったので、取引するというより、誰がどんな方法でふっかけてくるのか、この目でリアルに確かめるのが目的だった。1つ目はミラノで、2つ目の商談はブリュッセルでの会議だった。
結論からいえば、どちらも同じ詐欺グループとおぼしき集団であり、その手口はマネーロンダリングを目的とした現金取引と、仮想通貨でのキックバックの要求であった。あまりにもわかりやすい手口ではあるが、バーチャルなら騙されてしまったかもしれない。だが、リアル会議ゆえ、彼らの目が一瞬泳ぐさまを見逃さなかった。すかさず、「この手の話はこれで2回目だ。私は君たちのターゲットではない」ときっぱり言うと、顔がみるみる青ざめていくのが手に取るようにわかった。これはオンラインではなかなかつかめないことである。
最近、リスキリングのつもりで、コミュニケーションとコーチングの授業を受けているが、なかなか奥が深い。そこではリアルとオンラインでの違いや注意点なども教えてくれる、実に有意義な米国のコーチング企業のプログラムだ。個人的には情報量に優るリアルこそ、コミュニケーションの王道と実感する日々である。
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荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。
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