災害時の情報集約

2023.02.13 08:00

 前回に引き続き、宿泊施設に求められる情報整理の必要性について書きたい。各旅行会社や各機関から求められる情報は、施設の基本情報や営業状況だけではない。

 自然災害が発生した場合、道路や鉄道などのアクセスが途切れたり、宿泊施設そのものが営業不能になったりすることがある。筆者の旅館も西日本豪雨災害でいわゆる被災地域に含まれたことがあったが、その翌日から宿泊施設への電話やファクスが鳴りやまなかった。そのほとんどが旅行会社からの問い合わせだった。

 施設が営業しているかどうかを尋ねられるだけではなく、周辺道路の開通状況や、関係ない周辺観光施設の営業状況や再開見通しまで根掘り葉掘り尋ねられることで担当者が忙殺された。同じ旅行会社でも支店ごと、部署ごとに電話がかかってくるのだからたまらない。感覚的には着電数は日に1000件を超えていた。災害時なので従業員の確保や宿泊客、被災者の対応を最優先したかった時間であったにもかかわらずだ。

 他の災害で数日にわたる停電を経験した施設はもっと悲惨だ。自身も生存の危機にさらされているなか、担当者や責任者の携帯電話回線を上述の電話が占領した。バッテリー残量が心もとない状況で、応答しなければ何度もかけてきて不誠実だと怒られたという事例も聞いた。

 停電時にさらに問題となったのはOTAからの予約だ。停電時はパソコンも使えず、担当者が予約状況の確認ができないにもかかわらず、災害により旅行に行けなくなった人のキャンセルと、災害により自宅が使えなくなった近隣の住民や旅行中で行き先のなくなった人による新規予約が繰り返されるという現象が起こった。

 新規予約した彼らは、宿泊施設が通常通り営業していると思い込み宿泊施設までやって来る。もちろん営業できる状態ではないのでお断りするとそこでトラブルが起きる。その説明と対応のため、責任者が自宅に帰れず終日待機せざるを得ないという事態も頻発した。

 私が最初にこのような問題を認識した東日本大震災以降、各関係者に対して宿泊施設のデータベースの集約とオープン化を提唱していた。前段の施設概要や施設写真などの基本情報は公開可能な情報として施設がリアルタイムに1カ所で管理し、旅行会社や自治体、調査機関などはそこからデータを抜き出し利用する。

 災害時などは施設管理者だけでなく最初に情報を得た旅行会社が最新情報を共有して一般に見える形で公開することが柱だ。グーグルマップなども同様の機能を持ってはいるが、利用者の投稿が中心であるため、緊急時には間違った営業情報や意図せぬ写真、コメントなどが掲載されるという欠点がある。業界独自のデータベースであればそれを防ぐことができる。

 数年前、ツールの導入により災害時の被災状況や営業状況を旅行会社ごとに一元化しようという動きがあったが、情報登録者の事前登録が必要であったり、旅行会社ごとに回答してもそれほど施設側の労力の削減が見込めなかったりしたことから広がりを見せなかった。業界全体で取り組めば旅行会社、宿泊施設共に大幅な効率化と正確な緊急時対応が可能となるはずだ。

 主体となる組織の選定やコスト面での課題はあるが、アフターコロナで効率化を求められるわれわれにとって取り組む価値のある事業だ。しかし実現しても独自の情報提供を求める事業者が減らなかったり、この仕組みが旅行会社の新規参入を妨げるものになったりしたのでは本末転倒だ。長いトンネルを抜けつつあるいま、未来に向けてこのくらいの夢は見たいものだ。

永山久徳●下電ホテルグループ代表。岡山県倉敷市出身。筑波大学大学院修了。SNSを介した業界情報の発信に注力する。日本旅館協会副会長、岡山県旅館ホテル生活衛生同業組合理事長を務める。元全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会青年部長。

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