キーワードで占う2023年 海外旅行市場から推進基本計画まで

2023.01.16 00:00

(C)iStock.com/courtneyk

観光産業の再興に踏み出す23年。コロナ禍で経営基盤が傷んだ企業や地域にどんな変化が待ち受けているのか。18のキーワードから識者・記者が展望する。

<Keyword>海外旅行市場の回復度 勢い弱く19年比50%に届かず

 海外旅行の復調に勢いがない。片や国内旅行は22年10月の宿泊者数が19年越えの106%と勢いづくなか、海外旅行は水際対策緩和後の9~11月の旅行者数回復率(図参照)が著しく伸び悩んでいる。国内旅行は旅行支援策で出来過ぎの面もあるが旅行意欲そのものが旺盛であることは間違いない。

 海外旅行者数の回復がここまで鈍化しているのは燃油費の高騰、ランド費の上昇およびその両方に大きな影響力を持つ超円安の影響に他ならない。このままだと23年の年間旅行者数は19年比50%に届かないと予想している。

 状況の早期好転は望めないのか。特に燃油費高騰や円安は一時的なものではなかったのか。いずれもロシアのウクライナ侵攻がトリガーを引いた形となっており戦争が早期に終息するなら状況好転の材料にはなるだろう。しかし石油価格は1バレル80ドル前後の水準が今後数年にわたって続く可能性が指摘される。円安についても1~2年先まで130円台が続くとする予測が有力だ。安易な見通しは命取りとなる。

 今後、注目すべきポイントは旅行単価だ。各方面における物価上昇率と各通貨に対する円レートの低下を19年の海外旅行消費額に当てはめた計算上の単価上昇率は3割超に達する。一方、ランド費の支払いに相当する国際収支統計の旅行支払い額を基に試算した直近の海外旅行の単価上昇率は2割程度にとどまり、旅行者が工夫して旅行費用を節約する様子がうかがえる。

 商品の値上げは小幅に抑えつつ人々が以前より高い価値を感じる体験を提供すること。これが生き残りの鍵となるだろう。

黒須宏志●JTB総合研究所フェロー。京都大学文学部卒業後、1987年JTB入社。89年に財団法人日本交通公社に移籍。2013年12月からJTB総合研究所に出向、主席研究員。15年4月執行役員。19年4月から現職。旅行市場動向のリサーチャーとして講演・寄稿などで活躍する。

<Keyword>トキエア就航 日本に真のLCC誕生なるか

 地域振興をうたい、航空事業に新規参入を試みた者はこれまでもあった。しかし、ほとんどは志半ばで撤退していった。そもそも事業免許を獲得するハードルが高い。トキエアはこの点は何とかクリアできたようだ。6月に就航予定。後は生き残っていくのに十分な需要創造ができるかどうかだ。
 従来、地域航空として参入しようとする者は、公益性を前面に打ち出していた。そのため、公的支援に頼ろうとする傾向があった。しかし地方にそのような余裕はなく、また住民のサポートを得るにしても限界がある。結果、うまくいかなかった。
 これに対して、トキエアはローコストキャリア(LCC)として、地方に新たな需要を創造しようとしている。プロペラ機をあえて導入することで着陸料等、運航コストで無視できない公租公課の部分を削減し、かつ機体の回転率を上げることで低運賃を実現し、バスや鉄道から需要を奪おうとしている。
 これが成功すれば、日本でもようやく本当の意味でのLCCが誕生したといえるだろう。アジアで急成長を遂げたLCCは、まさにバスやフェリーから需要を奪い糧とした。これに対して従来の日本のLCCは、主要路線で大手航空会社とすみ分け需要を開拓してきた。
 トキエアの挑戦が成功すれば、地方はその振興のための大きな武器を手に入れることになる。公的負担に頼らず多くの観光客を送り込んでくれる可能性が出てくるからだ。そのためにも受け入れ側は、乗り入れを検討してくれるよう自らの価値を高めなければならない。ただ、そこまでトキエアが生き残れるかが問題だ。

戸崎肇●桜美林大学ビジネスマネジメント学群教授。1963年大阪生まれ。京都大学経済学部卒業。日本航空入社。羽田空港での旅客業務、旅行会社への販売業務、予約管理業務などに従事する。退社後は明治大学、早稲田大学などを経て、現職。博士(経済学、京都大学)。

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