『外遊日記』 旅への意欲かき立てる独自の描写
2022.12.19 00:00
本当にいろいろあった22年が終わりに近づいた。続くコロナ禍、旅行支援策による活況と混乱、円安、ウクライナの戦乱、入国規制緩和のドタバタ……お腹いっぱいな1年であったが、時間は誰にでも平等で、もう年の瀬だ。旅に振り回され続けた年だからこそ、「旅の初心」に戻ってみたくなる。
そこで今回は、エッセイの名手でもあった三島由紀夫による外国旅行の随筆集をご紹介しよう。残念ながらいまは絶版だが、古本も出回っている。
「タミイは二十歳そこそこの女優の卵で、リイ・ストラスバーグ氏とエリア・カザン氏の有名な『アクターズ・ステュディオ』で芝居の勉強をしている」。小説みたいな書き出しで昭和30年代のニューヨーカーたちが描かれる「ニューヨークの奇男奇女」。
「ハバナの空の色はあくまでも青く、キューバ人の黒いひとみは官能だけを追い求めて生きているように見えるのであった」と三島ならではの濃厚な描写で土地の魅力を切り取る「ふしぎな首都ハバナ」。
「たとえばピラミッドの存在感というものは独特で、実に気味が悪い」と、あらためて考えると奇妙なピラミッドの姿から東西の文明論へと話が広がる「ピラミッドと麻薬」……。
アメリカ、メキシコ、ハイチ、スペイン、ローマ、ギリシャなど、庶民には海外旅行が高嶺の花だった時代に外遊を重ねた三島の目に映る世界は彩り豊かで、いまのわれわれにも共感できる部分は多い。「あー、昔のニューヨークってこんな感じだったなー」と思いながら読むもよし、旅行意欲をかき立てられるもよし、文章を味わうのもよし。
外国の空気に触れるっていいなあ、海外旅行っていいなあ、なんて素直に思わせてくれるエッセイ集だ。正月読書に◎。
山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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