夢の持てる仕事
2022.10.24 08:00

リスボンにて、友人と4年ぶりの旧交を温める機会があった。待ち合わせ場所を市内のとある小さな公園にしたのだが、遠くの方から「こんなところに変な日本人がいた」と開口一番、以前とちっとも変わらぬごあいさつで笑いを誘う友人の笑顔があった。「目立つことはマーケティング的には勝利だ」と、こちらもさらりと返答。本はといえば、仕事つながりの友人ではあるが、社交辞令がいらない相手は実にありがたい存在と感じた瞬間だった。
コロナもようやく一段落の兆しが見え、これからどうやってこの失われた2年の借りを返していこうか、考えている方も多いだろう。そこで久しぶりに、人生における仕事の意義について考察してみようと思う。
同窓の大学の集まりでよく話題に上るテーマで、若い世代が旅行業やその未来に興味をなかなかもってもらえないという話がある。が、これは旅行業に限った話ではないだろう。最近はそんな気がしている。
昔は総合職に抵抗があった同期はあまりいなかったように記憶している。ほとんどの社会人1年生は、どの企業に入るかは気にしても、入社後の配属について、しかも入社前からケチはつけてはいなかったはずだ。だが、最近の若い世代は、いくら大きな会社であっても入社後に何をさせられるのかわからないようでは、そもそも働く気にもなれないという。他にも、お金をもらうために働くのはやむを得ないが、自分の好きなことを好きなペースでできないなら、そんな人生には意味がないとまでいう者までいる。
後輩の経営者に聞いても、新卒の社会人は採用してもすぐに辞めてしまうので中堅社員が誰も教育をしたがらないという。これもちょっとにわかには信じ難い話だ。
さらには、いまの小学生の将来の夢はユーチューバーという話を聞いた時は、さすがにデジタル業界歴が長い私でも少しぞっとした。悪いとはいわないが、夢ってそんなものだったかと、ふと自分の若いころが思い出された。
現実の社会では、特に都会の通勤電車に乗ると、朝は混雑のせいもあり、ちょっとしたことでよく口論になる人を見かける。夕方の電車は特に覇気のない形相の人が多い。最近はなんとか改革やリモート勤務のせいで、遅い夜の電車の混雑度は少なくなったようにも感じる。
こういう社会全体の様子を学生時代に見て育った若い世代に、どのような社会人になりたいか、夢を持てといっても無理な話なのかもしれない。先進国の中で、なぜ日本だけがこの失われた30年という悲しい現実を見ているのか。根本には何が原因としてあったのだろうか。
私は日本人の事なかれ主義にそもそもの原因があるような気がしてならない。個人主義が発達している欧米では自分の主張をしっかりするという教育が良くも悪くも根付いており、すべてにおいて自己責任が求められ、故に日本人の私からは全員開拓者のように見えることがある。
それに比べるとコロナ禍でもはっきりしたが、外から来るものや前例なきこと、未知のこと、これらはすべて怖いし危ない。だから赤信号は、みんなで長くずっと待てばいつか青になる。これはまるで、そのような都市伝説でもあるかのようにすら感じてしまう。
夢を持ってできる仕事とは何だろう。黄色で渡れとはいわない。でも信号がないところではどうすべきか。ずっと、ただ現在地にとどまり続けるのか。すべての日本人に問いたい。人生における仕事とは、信号どころか道路のない道を、われを信じて進むようなもの。私にはそう思えるのだ。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。
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