円安で亡国
2022.04.11 08:00

2月に円の実質実効為替相場(REER)が66.54(2010年=100)となり、1972年以来の低さとなった。物価上昇が続く海外とデフレに沈む日本との違いが出た結果だ。REERの下落は円の対外的な購買力が下がっていることを意味している。この状況はビッグマック指数を見れば分かりやすい。2月時点で日本は390円で33位だが、3位米国の669円と比べると半分以下の購買力しかない。アジアの中ではタイや中国より安く5番目で、当然G7の中ではダントツの最下位である。
わずか10年前は日本の320円に対して米国は323円で、ほとんど差がなかった。韓国は246円で、中国は188円に過ぎなかった。日本が輸出大国だった時代は円安になると輸出競争力が上がるメリットがあったが、多くの日本企業が生産拠点を海外移転したいまとなっては、円安になっても輸入品の高騰を招くだけでメリットは少ない。
もともと日本経済の成長力は脆弱だったが、コロナ禍によって諸外国との差が一気に広がった。2020年はどの国も新型コロナにより大きな経済的打撃を被ったが、21年はその復活のために行動制限を積極的に解除し潜在成長率の3倍前後の躍進を遂げた欧米と、経済より命を民意で選択した日本とで大きな違いが出た。その選択の是非は議論しないが、結果的に成長率の低さと通貨の弱さに拍車をかけたことは間違いない。
欧米では経済成長に伴い物価も上昇し、インフレ抑制のために利上げの流れになっている。4月以降日本でも物価は上昇するだろうが、経済は成長していないうえ日銀はゼロ金利政策を止めるつもりがなく円安傾向は続くはずだ。3月にまん延防止等重点措置が全面解除されても、感染者数が少しでも増えれば第7波だと騒いで行動制限がかかる恐れが日本にはある。経済の回復に本腰が入らないため物価が上昇しても賃金は上がらないだろう。
しかし、輸出されるのは財だけでなくサービスも含まれ、インバウンド需要復活のために円安がフォローの風になると観光業界では考える向きも多いだろう。日本には歴史と素晴らしい文化があることは間違いない。だが、それを生かしたビジット・ジャパン・キャンペーンが効を奏したから訪日外国人が増加したと考えるのは楽観的過ぎる。LCCの普及やビザ緩和などの要因もあるだろうが、本質はアジア諸国が経済成長するなか日本だけが地盤沈下しているため円安になり、近くて安く行ける旅先になったところにあるはずだ。
日本の経済が力強い成長軌道へ戻り労働者の賃金が上がれば、物価も上昇し円は高くなる。その時、日本への旅行がいまの2~3倍の価格になるかもしれないが、果たして4000万人という数を海外から引き寄せることができるか一度真剣に考える必要がある。それが無理だから、このまま低賃金と安い物価を維持して円安基調の方がいいと思うとしたら、日本は観光で立国どころか亡国になる。

清水泰志●ワイズエッジ代表取締役。慶應義塾大学卒業後、アーサーアンダーセン&カンパニー(現アクセンチュア)入社。事業会社経営者を経て、企業再生および企業のブランド価値を高めるコンサルティング会社として、ワイズエッジとアスピレスを設立。
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