自由競争が開く未来

2022.03.28 00:00

 自動車産業は私にとって郷愁を感じる世界だ。初めての社会人生活が始まったのも、また当時は珍しかったベンチャー起業の覚悟を決めたのも、製造業に身を置いていたから起こり得た。あの頃、自動車は斜陽産業といわれていた。なぜ、わざわざそんな業界に入ったのか、よく質問された。まあ、余計なお世話である。

 それがいまや世界で最も注目を集める業界の1つとなっている。世界的な社会現象といってもよいSDGs(持続可能な開発目標)への意識高揚により、EV(電気自動車)への注目が高まり、近未来インフラの中核となり得る産業への期待が出てきたからだ。自動車業界はこのEV革命により、ハードからIT重視のソフト産業へと比重が変わりつつある。

 メルセデスの発明以来136年以上、既存企業の強みであった内燃エンジンという最大の参入障壁すら捨てざるを得ない状況となった。結果、GAFAはもとより、日本のあらゆる業界、特にIT系からも熱視線を注がれる。まさに敗者復活を見ているようだが、そこには持続性と変革というキーワードがある。

 一方で高度成長以来ほぼずっと勝ち組であった金融業界は、米国、英国に11年ずつ遅れをとりつつも、1997年に日本型金融ビッグバンによる自由化がスタート。ゆっくりと業界再編が次段階へ移りつつある。手数料自由化、銀行・証券の垣根撤廃など自由化の波が押し寄せたものの、元来の規制がいまだ重すぎ、改革のスピードは遅い。ここでもITの津波は世界中で変革を促進するが日本ではいまひとつで、新卒の就職人気ランキングから脱落しつつある。

 さて、旅行業はといえば、いまはコロナ禍の影響を最も直接的に受けつつも、ようやく出口が見え隠れし始めている。ただ、平和産業ゆえに多くの障壁がある。旅行業が若者の人気産業に躍り出ることはあるのだろうか。

 自動車業界がいまのような形で復活するとは、業界にいた人たちでさえ想像しなかったに違いない。逆に金融業界で活躍してきた方も、このように人気が下がる業界になるとは夢にも思わなかっただろう。つまり、ずっと安泰な業界など1つもないということだ。

 これを逆手にとれば、旅行業が盛り返せないという理屈もないはずだ。ただ1つだけ記憶しておくべきことは、既得権益にあぐらをかこうとする業界や企業はいつか必ず衰退していくという現実である。金融業界は戦後かなりの期間、旧大蔵省の護送船団方式でしっかり守られてきた。自動車業界も、日本ではある意味で消費者を犠牲に厳しすぎて高すぎる車検制度により、結果的に他国より短いサイクルで買い替えをする新車代替需要に支えられ、販売台数を伸ばし成長してきた。

 つまり、楽をした業界は、いまそのツケを払わされており、他国のより強い競争環境を勝ち抜いた海外企業の黒船来襲を受けて、遅ればせながら数周回遅れのトラックを走りだしたという状況なのである。まるで幕末の再来そのものだ。

 競争こそが企業を強くする。これこそ自由主義経済の最大のメリットであり、また成長の源泉でもある。現代はそれに環境保護・持続性に強く配慮しなければ消費者がついてこないという成熟度の高い社会となった。

 旅行業が真に復活するためには、単にパンデミック収束、軍事的緊張緩和の実現では不十分だ。言葉、商慣習、業法、規制など、業界を守ってくれる市場特異性がまったくない状態でも世界の誰とでも互角以上に戦えるか。ここにすべてのヒントがある。

荒木篤実●パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。マー ケティングとITビジネス のスペシャリスト。ITを駆使し、日本含む世界の地場産業活性化を目指す一実業家。

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