事業再構築補助金でコロナ禍脱却へ 新事業の構想から採択まで

2022.02.14 00:00

旅専(旅の専門店連合会)とトラベルジャーナルは昨年12月10日、アセアンホールで旅行業界向けセミナーを開催した。コロナ禍が長引くなか、企業の生き残りには思い切った業態転換も選択肢の1つ。昨年には政府が事業再構築支援制度を立ち上げており、セミナーでは採択を受けた旅専加盟社が経験談などを語り合った。

 冒頭挨拶に立った旅専の松浦賢太郎会長(クルーズのゆたか倶楽部代表取締役社長)は「海外旅行は22年に復活するのか。5年先も復活しなければどうなるのか、危機感を共有したい」としたうえで、「補助金活用を躊躇する方の背中を押し旅行業の枠にとらわれない大胆かつチャレンジングな新規事業のきっかけを作るのが目的」とセミナーの趣旨を説明した。

クルーズのゆたか倶楽部・松浦社長

 テーマは事業再構築補助金。コロナ禍で打撃を受けた中小企業を対象に、新事業分野への展開や業態転換、事業・業種転換、事業再編などへの取り組みを支援するために政府が用意した補助金だ。

 これまでに3回採択が行われているが、採択率は各回30~40%台と高くはない。事業計画をまとめ、申請書類を整えて申請し採択に至るのは簡単ではない。しかし旅行業界からの申請も少なくないという。旅専加盟会社からはこれまでに3社が採択されている。セミナーではこのうち英語教育型保育事業への参入を掲げ採択されたクルーズのゆたか倶楽部、北欧文化に触れる多目的スペースの運営を手掛ける計画のフィンコーポレーション、遺骨の粉骨や海洋散骨事業に進出を図るティーエーエムインターナショナルの3社が取り組みの内容を紹介した。

 事業再構築補助金を使った新分野への進出の理由について、企業としての生き残りを図る目的は3社共通だが、経営者としての思いは少しずつ異なる。クルーズのゆたか倶楽部の松浦社長はコロナ禍を通じて「何が起こるか分からない世の中には専門店が一番難しい立場に立たされる。どこかで多様性を持っていなければ生き残れない」との思いが高まったという。

 フィンコーポレーションの美甘小竹代表取締役社長は「専門店の人材は替えがきかずスタッフを大切にすることが必要。雇用調整助成金を活用し休業も考えたが社員のモチベーション維持とメンタルヘルスを重視した」とし、一部は出向でしのぎつつも社員が共に取り組める対象として自社による新規事業の道を模索したと説明する。さらにティーエーエムインターナショナルの齋藤毅人代表取締役社長は主力の海外旅行が停止しているなかで、新規事業を考案することが残された数少ない生産的な活動だったとしている。

フィンコーポレーション・美甘社長

 一方、対象となる事業の考案、選定の理由と背景は各社各様だ。クルーズのゆたか倶楽部はSWOT分析により徹底して自社の強みを探った。その結果、社員の英語力の高さや添乗業務を通じて養われた優れた管理能力、施設を開設可能な自社ビルの存在などを生かせる事業として新事業の計画を立案。子供向け英語教育の実績を持つ学栄とフランチャイズ契約を結び、自社ビル内に保育園やプレスクール等が一体化した英語教育型保育園を開設することにした。

 フィンコーポレーションは社員からもアイデアを募り新規事業案を模索。スタッフ全員が北欧居住経験があり北欧が大好きな者ばかりという強みを生かしつつ、コロナ禍で現地を訪れずとも北欧への関心を絶やさない北欧ファンをつなぎ止め、旅行再開時には顧客として戻ってきてもらうことも考えた結果として、北欧ファンが集える多目的スペースの運営を目指した。

 ティーエーエムインターナショナルは国内で完結する事業であることを条件として、幅広い目線で有望な事業を探した。その結果、テロや疫病等に左右されず、需要が決してなくならない分野として人の死に着目。最終的に遺骨の粉骨や海洋散骨事業にたどり着いたという。

5年以内に売上の1割以上確保

 事業再構築補助金の難しさの1つとされる申請手続きに関しては、クルーズのゆたか倶楽部とティーエーエムインターナショナルは自前で行い、フィンコーポレーションはコンサルタントの力を借りている。クルーズのゆたか倶楽部は計画を一から練り上げ申請書類も自ら準備することで事業の隅々まで把握し、情熱をもって新規事業に取り組むことを優先。経営トップの熱意が社員に伝わる効果も見込んで申請に取り組んだ。

ティーエーエムインターナショナル・齋藤社長

 ティーエーエムインターナショナルは採択後の交付申請が難航したが交付決定されている。これら一連のプロセスは「余計な費用を掛けたくなかった」という齋藤社長が自ら行ったが、中小企業診断士の知人の力を借りて進めた部分もあった。フィンコーポレーションは新事業の実現には採択が不可欠で、是が非でも採択を目指しコンサルタントに相談したという。

 事業再構築補助金は5年以内に新規事業が総売上高の10%以上を占めることが求められる。5年後が1つの節目になるが、クルーズのゆたか倶楽部は売上高の10%をクリアするため5年後までに3園の開設を計画。フィンコーポレーションは5年後には、再開されているであろう海外旅行事業とそれ以外の事業との相乗効果を見込むためにも、3年目までに多目的スペース事業を軌道に乗せたい考えだ。

 パネルディスカッションのモデレーターを務めたブラジル旅行社営業課の貫井崇之課長は、「自社の強みを具体的に分析し、思いを空想に終わらせずアイデアを具体的にまとめ上げることがいかに重要か理解できるディスカッションになった」とまとめ、思いを貫き信じ切れるかもポイントであると総括した。また、印象的だった話として、「事業再構築補助金への取り組みを通じて『社員の意識が変化した』『専門店としてだけでなく視野を広げ悩みつつも生き延びていくことの大切さを知った』との指摘があったこと」を挙げた。

ブラジル旅行社・貫井課長

協賛企業挨拶/東京海上日動火災保険

旅行業営業部・大野幸郎営業推進統括審議役

 保険募集は2年近く停止し旅行に光が見えた時に以前のように円滑な募集が可能か確認いただきたい。社員が減り保険募集人の有資格者がいなければ募集できない。現在はコロナ一辺倒だがテロや自然災害にも以前と同じく対峙せねばならない。社内の安全管理体制も再整備の必要がある。保険会社として事業継続セミナーも用意しているので利用してほしい。

協力/日本アセアンセンター 観光情報サイトで旅のアイデア紹介

 日本アセアンセンターが開設したASEAN10カ国の観光情報をワンストップで閲覧できるウェブサイト「ASEAN Travel(アセアントラベル)」。ASEAN諸国での旅のアイデアを「グルメ」「ショッピング」「体験」など、トピックごとに紹介。新型コロナウイルス感染症の影響に伴う、ASEAN各国の入国規制の概要も案内している。(https://travel.asean.or.jp/)

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