ツーリズムのグラスゴー宣言
2022.01.17 00:00
昨年11月に英国グラスゴーで国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が開催された。同時に数百のツーリズム企業の責任者が集まって温室効果ガスのツーリズムに起因する排出量を30年までに半減し、50年には実質ゼロにするという目標と達成のためのロードマップを立ち上げた。多様なプレーヤーを包含する巨大産業が初めて全体的な対策を打ち出したことは画期的なニュースとして世界各国で報じられた。
ツーリズムの気候変動対策グラスゴー宣言は賛同するツーリズム関連組織が目標達成のための具体的かつ透明性のある計画を1年以内に提出することを求めている。例えば署名した企業や団体は自分たちの温暖化ガス排出量を報告しその削減をどのように達成するかの具体策を示すことが求められる。進捗を管理するのはこの分野で以前から協力関係にある国連世界観光機関(UNWTO)と世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)である。
WTTCの調査によればツーリズムは世界の温暖化ガス排出量の10%前後に責任があるとともに、温暖化の進展に伴いツーリズム依存度の高いタイなどさまざまな国々で海面上昇、猛暑、山火事、貴重な生物種の絶滅などの問題に直面している。新型コロナの影響でツーリズムが大きく落ち込み、ベニスやバリ島などのオーバーツーリズムがもたらしていた問題が明らかになり、地域によってはより持続可能なビジネスモデルへの転換を目指す動きも出てきているが、一方でコロナによって大きな経営上のデメリットを抱える企業がそうした変革プランを実行できるか不安は残る。
グラスゴー宣言は4つの目標を掲げている。まず実態の把握が必要として現在の温室効果ガス排出量を提出。次に科学的知見や分析に基づいた脱炭素の目標設定。そして自然な生態系の回復と保全のための具体策。最後にさまざまな有用な知見の共有と資金面の協力である。WTTCが250社を対象に行った最近の調査によれば、気候変動対策を公表しているのはその42%に過ぎず、内容も必ずしも最新科学に基づいていないとされる。
こうした状況を受けてWTTCはグラスゴー会議に向けて50年に排出量実質ゼロを目指すための業種ごとのロードマップを発表している。先進的な取り組みで知られるイントレピッドトラベル会長のウエイド氏は中小企業では自社のビジネス量から影響は大きくないと考え無関心になるケースが多く、それを解決するためにも大手企業が率先して取り組み、ノウハウを公開することが大切としている。
宣言により全体が統一して取り組む姿勢を提示できたわけだが、ツーリズムの様に多様なビジネスを包含する産業において統一された排出量報告の仕組みを設定するのは簡単でない。国際的なサプライチェーンの中で相互監視が必要だろう。実行計画の進捗状況を報告するシステムが必要で、それが実行できない組織はこの宣言から除名される。
ツーリズムのグラスゴー宣言は大きな注目を集めており、日本でも広く報道されると期待していたが実際は業界内メディア以外ではあまり報道されていない。今回の記事はニューヨークタイムズのネット版に出たものの一部抜粋だが、観光立国日本で同じレベルの報道が見られないのは寂しい限りだ。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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