『理不尽ゲーム』 ベラルーシの現実に迫るフィクション
2021.06.28 00:00
ベラルーシが大変なことになっている。26年間、大統領の座に居続けるルカシェンコ氏が事実上の独裁政治を行い、昨年の選挙では対立候補が拘束され、代わりに出馬した妻が国外退避するなど大混乱。先日は当局が出国した飛行機を強制着陸させ、搭乗していた反体制メディアの男性を拘束するなど体制のヤバさが際立ってきている。
なかなか日本にいると具体的な状況が見えにくいな、と思っていたら、こんな小説が翻訳出版された。
主人公はどこにでもいそうな少年ツィスク。世話焼きなおばあちゃんに反抗しがちな16歳の男の子だ。1999年、地下通路での事故に巻き込まれ昏睡状態に陥った彼は10年後の2009年に目を覚ますが、彼の覚醒を信じていたおばあちゃんはその2日前に亡くなっていた。10年ぶりに接する祖国ベラルーシのありさまはツィスクの理解を超えているが、親友スタースは「その言葉は忘れたほうがいい」と諭す。
ふつうの女性が携わる愛人商売。無意味に見えても皆が一斉に従う大統領令。思うようにつながらないWi-Fi……。昏睡状態のさなか、おばあちゃんがツィスクにかける言葉、スタースの独り言、ツィスクとスタースの会話など、登場人物たちはよくしゃべる。文章で状況説明があまりされないぶん、読者は彼らの言葉から状況を読み取り、その言葉によって徐々に国民が置かれている状況の理不尽さ、閉塞感、無力感を共有させられていく。そしてこの無力感はいまの日本で抱く感覚と通じるような気もして、知らず知らず自分の物語のように引き込まれていく。
14年に出版された小説だが、この国が追い込まれている状況、人々の心情を想像できる作品だし、現代日本の問題も考えさせられる問題作だ。
山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
カテゴリ#BOOKS#新着記事
-
?>
-
『日経トレンディ2025年1月号 大予測2030-2050』 勝負を決めるのは人間
?>
-
『ドイツの心ととのうシンプルな暮らし365日』 日々の営みを国民性豊かにたっぷりと
?>
-
『先生、どうか皆の前でほめないで下さい』 いい子の扱いに戸惑った時の処方箋
?>
-
『パーティーが終わって、中年が始まる』 氷河期世代の疲れた今に
?>
-
『ポトスライムの舟』 夢を買う側に思いをはせて
?>
-
『地図とその分身たち』 旅道具を超えた広がりと奥深さ
?>
-
『地球行商人 味の素グリーンベレー』 食を変えた立役者の奮闘
?>
-
『世界思い出旅ごはん ローカルフードを食べ歩き!』 食の大切さ知り、また旅に出たくなる
週刊トラベルジャーナル最新号
アクセスランキング
Ranking
-
築地場外市場にスマートごみ箱 ポイ捨てなど課題に対処
-
観光庁予算、旅客税財源の比率83%に上昇 コンテンツ強化、ICT、DMOに注力
-
観光収入、日本は伸び率上位 59%増で米仏など大国しのぐ
-
主要7空港の外国人入国者数、那覇もようやく19年超え 9月実績 韓国3.7倍で
-
文化観光の計画認定、旧醤油工場も たつの市など4件 制度開始から計57件に
-
今治に地域創生のヒント クールジャパンDXサミットで岡田武史氏が披露
-
未体験の訪日市場出現の中で ひがし北海道DMOがシンポジウム
-
旅行取扱額で19年超え企業、11社に拡大 10月実績 海外旅行は7割まで回復
-
中部空港、訪日誘客に主体的関与 地域ブランド共創室を設置
-
キーワードで占う2025年 大阪・関西万博からグリーンウオッシュまで