パンデミックと旅行のギャンブル
2021.04.19 00:00
現在の観光・旅行産業はどん底だ。しかしワクチン接種が始まり、英国政府が5月17日以降に可能な限り早く制限を解除したいと発表したことで、ロックダウンで長く閉じ込められてきた人々に旅行復帰の兆しが見えてきた。
英国のクルーズ会社とツアーオペレーターは、夏以降の旅行で好調な予約状況を報告する。クルーズ船数隻を所有する大手オペレーターのサガホリデイは5月中旬から政府の旅行制限緩和を予想して運航計画を発表したが、50歳以上の予約が急増。1月までに今期販売目標の70%に相当する約1.4億ポンドの売り上げがあった。
予約は好調でもコロナ終焉で旅行制限がいつ解除されるか誰も分からない。2月の英フィナンシャルタイムズは消費者の拙速な旅行予約には突然のキャンセルでお金を失うリスクがあると報じた。昨年から多発する航空会社と消費者のデポジット払い戻しを巡るトラブルは、数万人の消費者が(次回旅行に有効な)バウチャーを押し付けられたり、返金の遅れや未処理で事実上拒否されたりした。
パンデミックによるフライトキャンセルは航空会社にもギャンブルだが、リファンド問題で数多くの旅行会社が破綻した。病気やコロナウイルスによる取り消しをカバーする保険もあるが料金は安くない。また予約時に保険契約しておかなければ、出発前に旅行が取り消されると払い戻しがなくなる恐れがある。
欧州のエージェントとツアーオペレーターの業界団体(ECTAA)は、欧州委員会(EC)と各国政府に航空旅客権利規則261条(7日以内の返金義務、オペレーターとエージェントに14日以内の返金義務)の強制執行を要請した。
航空会社間の競争にもギャンブルがある。ライアンエアーは12月28日、19.99ポンドで100万席を販売。1月1日には9.99ポンドで1万席を販売した。同社はB737-8200を210機発注している。運航効率は高まるが、結果として座席供給の増加をもたらす。英国2位のオペレーターで航空会社3位のジェット2も夏以後の予約が好調で座席供給を増やそうとしている。ウィズエアーも同じだ。ブリティッシュエアウェイズ、TUI、イージージェット(いずれも大赤字が続く)も競争に加わる。市場シェア確保へ馬鹿げた運賃で競争を続けることは、収益上もCO2排出目標からもサステイナブルではない。
トラベルウイークリーでは識者が「航空業界は焼き畑農業」と批判する。5月から運航再開を予定しても、それまでにワクチンの効果が出てフライトが再開できる保証はない。航空会社は大部分の航空機を地上に待機させ、多くのフライトキャンセルが起きている。自分たちの運航計画で満席にできるのか、手元現金が底をつきかけている状況でさらなる成長を期待できるのだろうか。
需要が増え続ければ問題は解決する。100年前、第1次世界大戦と世界で1億人が死亡したスペインかぜパンデミックがあり、その後に狂騒の1920年代の大量消費や人生を楽しむ新たな風潮が続いた。観光・旅行業界には抑えられていた旅行需要が復活、同じポストパンデミックがブーム到来する期待がある。しかし次は家計圧縮の大節約時代になるという見方もある。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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