混乱する国境管理の現場

2021.03.15 00:00

 英国政府は新型コロナウイルスの変異ウイルス拡大を阻止するために2月15日から厳しい国境管理制度を施行した。高リスク33カ国から英国に到着する旅行者は政府が承認したホテルに宿泊し、10日間の自己隔離をしなければならない。政府は月間2万8000室を確保する計画だ。ホテルは指定する10空港・海港の近くに立地し、警備員を配置して客が部屋から離れないよう監視しなければならない。コロナへの対応に同情の余地はあるが、政府の拙速な施策は現場に混乱を招いており、英フィナンシャルタイムズは現状を批判的に報じている。

 最終準備段階で英国政府がオーストラリアの会社に発注した検疫システムのサイトがダウンした。政府は出発前の検査から旅客の位置確認フォーム、旅行ルートの一時的停止、国境管理強化、ウイルスの国内流入防止まで規則を定めたが、施行前に必要なチェックと現場への徹底が十分でなかった。関連する航空会社、空港、ホテルの一部は新システムについて明確な指示を受けていなかった。

 国境を管理する職員は旅行者を識別し送り先のホテルを決定する役割がある。警備員は旅行者を送迎バスあるいは空港ホテルなら部屋まで同行するが、具体的な指示が必要だ。受け入れ側のホテルにとってもスタッフや警備員の安全に関する懸念があり、事前の質問に対して政府から具体的な回答がなく不満が高まっていた。

 政府のガイドラインは「ホテルはスタッフの陽性者拡大を管理しなければならない」とするだけで、施行直前まで旅行者はどれだけの時間外出を許されるのか、喫煙できるか、スタッフは検査されるのか等々が決まっていなかった。客が運動のために部屋を離れる条件についても、「これは変わるだろう」と注釈が付いていた。

 出国に関しても混乱がある。航空会社のチェックインスタッフは、搭乗前のコロナ検査の結果について信憑性をチェックする国境管理官の役割を求められる。命じられているのは、検査証明書の名前の符合など詳細な一通りのチェックだが書類が本物かどうか分からないという。IATA(国際航空運送協会)によると、偽造コロナウイルス検査証明書の問題は増えており、チェックインスタッフは指示された書類のチェック事項と手続きの増加で、これまでにない重圧にさらされている。

 政府はさらに旅行目的の新たな報告義務まで導入して、チェックインの際に航空会社のスタッフが確認することを求める。旅行目的について航空券発券担当者は、旅行が必要不可欠なものか否か、旅客の旅行を許可すべきか否か、搭乗を拒否すべきか否か判断できないと主張している。航空会社幹部と労働組合が深刻な懸念を示すが、旅客に対してスタッフが規則を強制するのは難しい。航空業界はそのような役目は警察が行うべきだと警告する。労働組合は「現在、旅行は必要不可欠な理由がある時のみ実施できるとする政府の方針には、それを確実にする監視体制に抜け穴がある」と声明を出した。

 高リスク国からの入国者は政府のサイトで事前に予約したホテルの宿泊隔離のために1750ポンド負担しなければならない。違反者への重い罰則を含む国境管理の厳格化が長く続きそうなことで、旅行業界は夏の予約への影響を懸念している。

グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。

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