米トラベル・コーポレーションのポストコロナへのメッセージ
2020.11.09 00:00
コロナを制御しつつ経済を回すという難しい課題に多くの国がチャレンジしているが、米国の状況のようにこの2つの両立はいまのところ見通せていない。とは言いながら少しずつコロナ後を視野に入れた目標を立て、コロナ克服のプロセスの中で将来のあるべき姿に近づこうという動きが見られる。
最近、筆者の関心を強く引いたのはザ・トラベル・コーポレーション(TTC)という米国企業の取り組みだ。なじみがない読者が多いかもしれないが、トラファルガーやインサイトといった同社が世界のさまざまな地域で所有する40以上のブランドのいくつかはご存じと思われる。
世界で1万人以上のスタッフを抱え、今年で創業100周年を迎えた老舗企業である。ロンドンの自然史博物館で盛大な100周年祭を行う計画であったが、コロナのために中止を余儀なくされた。同社はさまざまなデスティネーションに密着した旅行商品を造成し、世界中のマーケットに販売するというビジネスモデルが中心で、特に英語圏に強みを持ち、高い商品力のおかげで高級ブランドとして位置づけられることが多い。
家族経営で経営情報はあまり公開されていないが、マーケットとビジネスパートナーの不安をぬぐうため、8月にグループの昨年末時点の流動性資金が3億ドルあったと発表した。顧客や代理店がツアーに申し込んでも、コロナの影響で突然倒産することはないというメッセージだ。
その一方で25年に向けて、ポストコロナを見据えた11の目標を設定したことを9月末に発表した。反人種差別のスローガンであるブラック・ライブズ・マターをもじったメイク・トラベル・マターという標語を使い、運営する1500以上のツアーの50%で国連の掲げる持続可能な開発目標(SDGs)に貢献するプログラムを含めることを目指すとした。すでに実行されているものでは、ベルリンでの難民との交流、アイルランドでの狩猟採集体験、南アジアで酸攻撃にあった女性たちを支援する組織への訪問などがある。
25年までに達成する目標は多岐にわたる。温暖化対策の面では温暖化ガス排出量を実質ゼロにすること(30年が目標年度)や使用する電気の半分を再生可能エネルギーでまかなうことが目標とされる。食品廃棄物の半減、食材の地産地消や有機栽培の促進もある。
旅行パンフレットの部数も50%削減し、プラスチックも減らす。低開発地域を訪れるツアーを20%増やし、社員も顧客も多様性を肯定する姿勢を強め、3万時間のボランティア活動も実行。すべての野生生物に関わるプログラムが21年には動物福祉の指針に違反しないことを目指す。特に目新しいものはないが、数値目標と達成年度が明示されているのが目を引く。
コロナで本来の魅力的な姿を取り戻したベニスなどを見て、オーバーツーリズムが旅行の価値をいかに傷つけてきたか多くの人が実感させられた。ポストコロナに向けてはツーリズムのSDGsがどうあるべきかという課題から目を背けるわけにいかない。TTCの取り組みは個々には適不適があろうが、同様の動きが日本を含むマーケット、デスティネーションで必要ではないだろうか。
グループ4●旅行業界と外国政府観光局で永年キャリアを積んできた4人により構成。大学の観光学部で教鞭をとったり、旅行業団体の幹部経験者もいる。現在、外国メディアで日常的に海外の観光・旅行業界事情に接し、時宜に応じたテーマで執筆している。
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