『大好きな町に用がある』 旅への愛情と情景豊かに
2019.06.17 14:23

文芸作家の旅エッセイっていまいち面白くないことがありませんか。編集者がお膳立てしたスケジュールをそのまま歩いてる、お出かけがあまり好きではない作家のエッセイは特にそうなんだよなあ(偏見ご容赦……)。その逆で、旅好きお出かけ好きな手練れの作家が描き出す旅の風景は、引き込まれるように読んでしまうことがある。角田光代もそのひとりだ。
本書は、バックパッカー旅からはじまり、旅を重ねてきた彼女が観た風景、人との出会いや出来事の記憶、それらにまつわる思いを柔らかな筆致でつづったエッセイ集だ。
「ひとり旅をはじめて二十年以上たった最近、気づいたのであるが、私は旅が下手だ」(「まるで出番なし」より)
地図が読めないうえに困ったことがあると脳がフリーズするので人に頼るしかない。結果、いつまでも旅に慣れない、という著者は行く先々でさまざまな人や出来事と出会い、その記憶をかつての旅や己の人生と重ねていく。プノンペンでひったくりに遭ったとき、思い出すのははじめての自由旅行で落とした財布を届けてもらったこと。「人は善意の生き物である」という旅観が生まれた瞬間だという。人を信じてはいけない、と思いながらもやっぱり信じたい。それは願いだと著者は語る。
旅人がよく言う「土地に呼ばれる・呼ばれていない」「相性が良い・悪い」といった旅先の捉え方についても何度か触れられる。著者にとって相性が良いのはいるだけでリラックスできる香港、縁を感じないけれども何度でも行きたい八重山、永遠の理想郷で再訪をためらうタオ島……。旅を重ね人生を重ねてきた人がその記憶であらためて旅を反すうし、人生に思いを馳せる、旅を愛する人ならより共感できる部分が多いだろう滋味深いエッセイだ。
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山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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