不正受給問題を考える 旅行業界の信頼回復に向けて

2022.01.24 00:00

(C)iStock.com/francescoch

雇用調整助成金やGoToトラベル事業の給付金の相次ぐ不正受給問題に旅行業界が揺れている。いずれも業界を代表する企業やグループ子会社によるものだけに、旅行業界としての信頼が損なわれたことは否めない。今回の不正受給問題から旅行業界は何を学ぶか、信頼回復へ何が求められるのか、考察していく。

 昨年11月、ワールド航空サービスの雇用調整助成金の不正受給疑惑が持ち上がった。発端はNHK報道で、11月9日付で関係者の証言に基づき疑惑を指摘。内容はワールド航空が20年3月以降、雇調金の制度を利用しているなか、7月頃からは多くの社員が出社するようになったにもかかわらず、社員を休ませているよう装い約7000万円を不正に受給したというもの。すでに東京労働局が21年6月分以降の支給を停止したうえで調査を進めていることも合わせて報じた。

 ワールド航空といえばJATA(日本旅行業協会)の会長で業界の顔でもあった菊間潤吾氏が代表取締役会長を務める旅行会社として知られていただけに業界の受けた衝撃は大きかった。また菊間氏はコロナ渦中の21年7月にJATA会長に就任すると、政府に旅行業界の存亡の危機を訴え、雇調金の特例措置延長などを訴えていた立場だっただけに、業界全体の信頼に悪影響を及ぼすことが懸念された。

 ワールド航空の不正疑惑が報じられたわずか1週間後、今度はTBSの報道番組でGoToトラベルを利用して69連泊をしたとされる夫婦の宿泊実態についてGoToトラベル事務局が調査をしていると報じられた。さらにその後、同番組が取材を続けた結果として12月9日にはエイチ・アイ・エス(HIS)の連結子会社であるミキ・ツーリストが、社員の名前を勝手に使用してGoToトラベル給付金を不正受給したとの疑惑を番組で取り上げた。ミキの檀原徹典代表取締役社長もJATA運営役員のほか、法制委員会副委員長も務める存在だ。

 ワールド航空の不正疑惑の動揺が続くさなかに、相次ぎ浮上した業界を代表する企業グループ子会社が関わる不正疑惑に監督官庁も事態の深刻さを認めた。観光庁の和田浩一長官は12月15日の会見で相次ぐ不正疑惑問題に関し「GoToも雇調金も税金を活用したものだから不正は決して許されるものではない。もちろん、あらゆる事業者が不正を考えているわけではないと思うが、不正事案が事実であれば誠に遺憾」とコメントした。さらに22年にもキャンペーン再開が期待されていた新GoToトラベルへの影響を問われると「国民からどう見られているか、よく認識しないといけない。観光関係者は長期化するコロナで大変厳しい状況に置かれているのはわかるが不正は許されるものではない」と述べ、影響を受ける可能性を否定しなかった。

ワールド航空のずさんな体制

 11月9日にNHKによって雇調金の不正受給疑惑を報じられたワールド航空は、翌10日に「雇用調整助成金不正受給疑義に関する一部報道について」とするコメントを発表。この疑いについてはすでに10月20日に第三者で構成された特別調査委員会を設置し調査中として疑惑の存在を認めた。特別調査委の最終報告は11月30日に公表され、事実に反する申請に基づく雇調金の不適切な受給があった可能性があると結論づけた。

 ワールド航空は20年3月から21年5月までを対象とする雇調金4億5384万円を受給しているが、最終報告によればこのうち約1億7800万円が事実に反する申請に基づいて受給したものと推認されるとしており、事実上、受給額の約4割が不適切な受給だった可能性を指摘した格好だ。

 最終報告書では故意による不正の有無については明確に判断できないとした。前提として同社には勤怠管理が存在せず、事後的に客観的な記録に基づき検証することができないことを挙げている。また勤務予定表は必ずしも勤務実態を正確に反映しておらず、業務用メールもプライベートのメールアドレスを業務用に使用することもあり業務実態の確認には至らないこと、商談記録も営業部員しか記録しないうえ本人以外が記入することもあり、交通費・定期券の記録や検温記録なども正確さに欠けるため、不正受給の金額は推認にとどまったと説明している。

【続きは週刊トラベルジャーナル22年1月24日号で】

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