『蒐集物語』 民藝運動の祖の執念に圧倒
2021.08.30 00:00

華やかな清水焼が有名だけれども、京都は民藝運動が盛んな土地でもあった。八坂神社近くの老舗和菓子店、鍵善良房は昭和初期には民藝運動に関わった文化人たちのサロン的存在で、現在も喫茶室の器や店先の展示、書画など至る所に民藝の美を感じ、触れることができる。清水寺から近い東山五条には、京都を拠点に活動した陶芸家・河井寛次郎の家を活用した河井寛次郎記念館があり、作品だけでなく蒐集した民藝の数々も展示されている。
その河井寛次郎と親しく交流していたのが、日本の民藝運動の創始者・柳宗悦。一時期は京都にも暮らし、鍵善良房とも縁があった。今回ご紹介するのは、その鍵善が新たな文化サロンの醸成を目指し創設した小さな美術館、ZENBIのショップで目にして買った1冊(ちなみに現在、ZENBIでは、当代きっての人気絵師で鍵善の紙袋の絵も担当した山口晃の個展が開催されている)。
内容は文字どおり、柳宗悦がいかに名品をコレクションしていったか、日本民藝館のコレクションを構築していったかを回想した随筆集だ。
いやすごいっす。柳センセイ半端ねえっす。古寺で見つけた名もなき行者の墨跡、東寺の朝市でおばあちゃんたちが売っていた古い丹波布など、誰も着目していなかった物の良さを瞬時に見抜いて即買い、買えない物は人に買わせたりもする。圧巻は木喰上人の仏像発見から蒐集に至るまでの顛末(てんまつ)を描いた部分だ。手掛かりが乏しいなか、調査を進め、ついに全国的なムーブメントにするその執念と自分の眼力や知識への信頼感、周囲を巻き込む力には圧倒される。民藝への新たな視点や知識を深めてくれる見事な随筆だ。添えられている名品の写真も眼福。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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