『ペスト』 今そこにある危機をまざまざと
2020.05.18 00:00

先が見えない新型コロナウイルスの流行。世界中が巻き込まれた疫病というのは1918年のスペイン風邪以来といわれているが、グローバル化が進んだ現代では、社会に与えるインパクトははるかに大きい。時間が経つにつれ、疫病というのは単なる病気ではなく、人類の最大の天敵なのだということを実感する。
そんななか、1947年に出版されたカミュの名著『ペスト』が再び読まれているのだそう。今年2月以降で15万部以上増刷(累計100万部以上)されたというから驚きだ。というわけで、大学時代ぶりに手に取ってみた。
舞台はアルジェリアのオラン市。医師のリウーはある日アパートの外でネズミが死んでいるのを発見する。門番に報告しても「誰かのしわざ」で片付けられてしまうが、ネズミの死骸の次は病に倒れる人間が増え、事態は坂道を転げ落ちるようにあっという間に悪くなっていく。病気が「ペスト」と特定されると街は封鎖され、外部から街に入ることも、街から外に出ることもできなくなり、市民および街に取り残された外部の人間はペストの恐怖と正面から向き合うこととなる。
大学時代は閉塞感や不条理と向き合う人の心みたいなことを考えながら読み進めたと思うのだが、今読むとリアルさが違う。怯える人、あえて明るく振る舞う人、なんとか街を脱出しようとするよそ者、この機に乗じてもうけようとする人、日常を守ろうとする人、揺れる聖職者、そして医療や行政に迫る機能不全の気配。まさに今われわれが面している困難と同じことが物語の中で市民を追い詰め、疲弊させていく。
うーむ。いまこのタイミングで読むからこその重さと面白さ(語弊があるけど)、いろんな意味で満喫しました。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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