在留外国人市場をつかもう 国籍主義から居住地主義へ

2019.09.16 01:00

在留在国人市場は確かな成長市場である
(C)iStock.com/Yuri_Arcurs

人口減少社会を迎えつつある日本。消費市場のシュリンクが懸念され、アウトバウンド市場も例外でない。しかし今後、市場そのものの拡大が期待されるのが在留外国人市場だ。視点を国籍でなく居住地に移せば、新たな市場の可能性が見えてくる。

 消費市場におけるすべての活力の源泉となるのが人口ボリュームだ。経済活動の基礎体力を形作るのも人口である。だからこそ人口減少社会を迎えつつある日本の将来を危ぶむ声は多い。海外旅行ビジネス、いわゆるアウトバウンドの世界でも、人口減少社会を迎え厳しい環境を受け入れざるを得ないとの見方があることは間違いない。

 しかし旅行業界が見落としている市場がある。実は人口そのものが増加している市場が存在しているではないか――というのが今回の問いかけだ。その市場とは在留外国人市場である。

 JTB総合研究所の黒須宏志研究理事は7月12日のセミナーで、日本の海外旅行市場に関して、今後市場規模が2000万人を超え22~23年頃までは成長するものの、その後は減少に転じるとの見通しを示した。一方で「日本に在留する外国人のアウトバウンドは18年に約255万人に達している」と指摘、すでに日本人出国者数と比較して13.4%に達する小さからぬ市場に育っていることを紹介した。さらに黒須理事は日本の国際化の進展に伴い在留外国人のアウトバウンド需要はますます増大し、30年前後には日本からのアウトバウンド需要全体の20%程度を占めるようになると予測。「その需要を取り込んでいくために、旅行業界は国籍主義から居住地主義へ視点を変えていく必要がある」とした。

 実際、日本各地で在留外国人の存在感が増している。群馬県太田市や静岡県浜松市はブラジリアンタウンとの別名が付くほどブラジル系在留外国人が多く、埼玉県八潮市は日本のリトルパキスタンと称される。東京都内でも西葛西は20年ほど前からリトルインディアとして有名だ。最近では埼玉県川口市のチャイナタウン化がメディア等でも話題に上り、在留外国人人口は増加傾向にある。

 法務省によると、18年末時点の長期在留者数は240万9677人、特別永住者数が32万1416人で在留外国人数は計273万1093人。前年に比べて16万9245人(6.6%)増加し過去最高を記録した。国籍別に見ると最も多いのは中国人の76万4720人で、以下、韓国、ベトナム、フィリピン、ブラジル、ネパールと続く。伸び率はベトナムの26.1%増が際立ち、次いでインドネシア(12.7%増)、ネパール(11.1%増)となっている。

 一方、在留外国人を都道府県別に見ると、東京都が全体の2割に相当する約57万人で、約22万人の神奈川県が4位、約18万人の埼玉県が5位で、関東圏の多さが目立つ。また2位に約26万人の愛知県、3位に約24万人の大阪府といった顔ぶれが並ぶ。さらに在留外国人が最も多い東京都を区ごとに見ると、新宿区では区人口の12.4%を在留外国人が占めている。在留外国人の増加の特徴といえるのが若い年代層の増加で、20~24歳で見ると新宿区や豊島区ではこの世代の人口の4割近くを外国人が占め、荒川区、台東区などでも25%前後に達している。

 こうした在留外国人の増大を一段と後押しするのが4月に施行された改正出入国管理法で、外国人が日本で生活を営める新しい在留資格が設けられ、特定の技能を生かして日本で仕事ができる職種の範囲も拡大。技能実習の対象となる職種も広げられる方向だ。改正出入国管理法施行により在留外国人総数の増加が予想されるだけでなく、彼らのアウトバウンド需要の増加が見込まれる。というのも、改正出入国管理法では外国人労働者の受け入れ環境整備も盛り込まれており、たとえば特定技能雇用契約では「報酬は日本人と同額以上にすること」だけでなく「一時帰国を希望した場合、休暇を取得させること」なども求められる。

【続きは週刊トラベルジャーナル19年9月16日号で】