動き出したNDC流通 国際航空券販売に変化の兆し

2025.03.17 00:00

(C)iStock.com/alvarez

国際航空券の新流通規格(NDC)に準拠した海外旅行販売がようやく日本でも広がる気配を見せている。航空業界が普及を図ろうとしてきたものの想定以上に時間を要し、とりわけ日本市場では進捗が見えなかった。だがここに来て、大手旅行会社の対応が始まるなど、変化の兆しが見える。

 IATA(国際航空運送協会)が12年に国際航空券の新流通規格(New Distribution Capability=NDC)の計画を発表し、普及に乗り出してから丸12年が経過した。しかし、航空業界側の思惑ほどには普及が進んでいない。IATAが当初掲げた20年までに航空券流通の20%をNDC化するという8年がかりの目標は未達。業界内からNDCの将来を悲観する声が上がった時期もあった。

 世界中の航空会社の予約・発券ができるコンピューターシステムを開発し、航空券流通を支えてきたGDS(Global Distribution System)企業は、1980年代から現在までEDIFACTと呼ばれる規格を採用してきた。それゆえNDCはGDS企業のビジネスモデルと相いれず、事業の根幹を揺るがしかねないものだったため、当初は様子見の姿勢を取っていた。その後、航空会社によってはNDCを優先し、GDSにハンディを課すなど、強引な普及策を展開したことがマイナスに作用。NDCを巡る航空会社とGDSのあつれきが増した面もあった。

 旅行会社にとっても、NDCへの対応には新たなシステム投資が必要となるため、現状維持を優先し及び腰だった面は否めない。航空会社のごり押し姿勢も反感を買った。米国ではNDC推進派の代表的存在であるアメリカン航空が旅行会社の対応を強硬に求め、旅行業団体が米運輸省に是正を要望する事態にまで発展。旅行業界との対立が先鋭化した結果、最終的にアメリカン航空側が戦略ミスを認め、方針転換する一幕もあった。

 肝心の航空会社も数で見れば消極派がマジョリティーで、一部の積極推進派を除けば、NDCシステム構築のための巨額投資に二の足を踏んでいたのが実態だ。つまり、流通システムの中核を担ってきたGDS企業、航空券を販売する旅行会社、そして投資余力に欠ける多くの航空会社の3者がそろって消極姿勢だったことが、足踏みを招く要因だった。

 そうしたなかでも、時間とともに状況は確実に変化している。

 GDSはEDIFACT規格とNDC規格の両方の情報を集約して提供するアグリゲーターとして活路を見いだした。NDCを拒否するのではなく取り込む戦略に転じたわけだ。航空会社と旅行会社のNDCデータ交換を専業とするアグリゲーターも増えた。世界的なOTA(オンライン旅行会社)を中心に旅行会社も対応を強化するようになった。航空業界もルフトハンザ・ドイツ航空やブリティッシュ・エアウェイズなど積極派の大手航空会社が推進力となり、NDCが着実に普及してきた。

 ところが相変わらずNDCに関して時が止まったままだったのが日本だ。日本市場の遅れについて、アグリゲーターであるバーテイル・テクノロジーズの日本法人、バーテイルジャパンの上甲哲也代表取締役は「日本法人を立ち上げた2019年には、ここまでの遅さは考えていなかった。圧倒的に遅れていると言わざるを得ない」と嘆く。

 遅れの理由には、イレギュラー運航への対応および変更・取り消し・払い戻し・差額徴収などといったサービスの課題、複雑な旅程への対応力不足、旅行会社のバックオフィスシステムとの連携といった課題が挙げられる。しかし、イレギュラー運航への対応等に関しては、航空会社のカバレッジが広がり対応機能も成熟してきたため、「NDC導入のネックではなくなっている」(上甲代表)。一方、複雑な旅程については、複数の航空会社を手配する必要がある場合の最適ルートの選択などは不十分というが、「実際には、単純往復かそれに準ずる旅程が需要の大部分を占める。NDCが苦手とする旅程を組む旅行者はいるが、ボリュームは大きくない」とする。

【続きは週刊トラベルジャーナル25年3月17日号で】

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