『ぼくたちは戦場で育った サラエボ1992-1995』 子供たちの言葉からにじむ戦争の愚かさ
2023.04.10 00:00

3年半ぶりに海外ひとり旅に出た。行き先は3年半前に途中まで旅して心残りだったバルカン半島。前回の続きを歩きつつ、ボスニア・ヘルツェゴビナのサラエボを再訪、最初に行ったのは数カ月に一度展示替えをする「War Childhood Museum」だった。
15年に開館したここは、文字どおり子供たちの戦争体験を展示する博物館だ。ユーゴ紛争の最中、サラエボが武装勢力により包囲され市民まるごと人質に取られた1992~95年の「サラエボ包囲」。家から一歩出ると銃撃されかねない状況下、食糧や日用品は地下トンネル経由の輸送や人道支援の小包でまかなわれ、学校に行くのもままならない。そんななか、子供たちはどんな思いで何をして生活していたのか。
88年生まれの著者は、2010年にネットで「子供のあなたにとって戦争とはなんでしたか」と問い、短い回想文投稿を募集した。世界中から集まった短いがリアルな言葉の中から約1000を選び収録したのが本書である。
「『ママが死んだよ』とパパが言った夜。それから、『きみのパパが死んだよ』という言葉」「本をおしまいまで読んで火にくべた。なんてことだろう、でもパンを焼かなきゃ」。著者はさらに思い出の品を提供してくれるよう市民に呼びかけ、博物館として公開した。
ずっと相棒だったぬいぐるみ、亡き親友がくれた陶器の犬、ある日路地に転がってきて、おもちゃ不足の子供たちに大興奮を巻き起こしたゴムまり。添えられた体験談は温かいもの、劇的なもの、胸に迫るものと多様で、戦争がいかに愚かな行為かがよくわかる。
現在、同館ではシリアやウクライナの子供たちの体験収集にも取り組んでいる。願わくばこんな展示がすべて過去の話になりますように。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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