テンプレート

2023.02.20 08:00

 「最大級の寒波」が押し寄せた1月末の北海道帯広駅。昼過ぎに出る特急がこの日の札幌行き最終、以後は全列車運休と繰り返し放送が流れる。幸い最終となる特急を予約していた。これなら札幌に行き、次の用事も予定どおりこなせそうだとコンコースで時間をつぶす。

 放送をよく聞くと、その最終となる特急も現在40分遅れているとのこと。繰り返し放送は流れているが、改札口を通ろうとする大きなスーツケースを携えた人が頻繁に現れる。みな外国人だ。駅の係員は丁寧に、日本語そしてカタコトの英語、場合によっては小さなホワイトボードに発車時刻を書くなどして案内をしている。みな納得し、待合室やコンコースへと戻る。寒い外に出て雪をバックに記念撮影するグループも。寒いのにエキナカの名物、しんむら牧場のソフトクリームが飛ぶように売れていく。

 いつか見た光景。訪日外国人が各地に戻ってきた。ちょうど3年前、札幌雪まつりあたりを境に途絶えたこの姿は見た目だけならあの頃と変わらない。JR北海道の外国人向けレールパスも12月には19年比7割まで回復したという。

 遅れて到着した札幌駅は帯広とは比較にならないほど混雑していたが、間引かれているとはいえ新千歳空港へのアクセスも確保されているとあって混乱はなかった。ここでも目立つのは外国人観光客。彼らはみんな楽しそうに会話し、写真を撮ったりしている。ホテルのフロントもごった返していた。耳を澄ますと聞こえてくるのは圧倒的に韓国語が多い。

 新千歳空港の22年11月の国際線旅客数は4万4000人で10月と比べ16倍。最も早く再開したのは7月の大韓航空ソウル/新千歳便で、現在は新千歳と韓国の間に6社週60便が運航される。一方で中国本土とのフライトはまだほとんど飛んでいない。「春節で多くの中国人、期待と不安」的な報道が流れたが嘘とまではいえないが誤報。まだ中国人への個人観光ビザはほとんど発給されておらず、かつての姿に戻るのはもう少し先だ。

 このように、これまでの固定概念(テンプレート)は破壊されていると思ったほうがいい。勘と経験と思い込み。われわれは長い間多くのことをデータを見ずに決めてきた。訪日外国人はクルーズ船を除けば航空便のキャパシティーに左右される。宿泊客ならばホテルの客室数。こうした言わずもがなのデータさえ使われず、ただいたずらに雰囲気で準備する時代はもう終わりだ。

 DXが叫ばれ、データとそれを可視化するビジネスは花盛りだが、ツールを生かし切れていない残念な例も数多い。マネジメント側にも問題はある。気にするのは「他社は」「世の中の反応は」「現場の意見は」。もちろんそれらも重要な要素だ。上がってくるそれらの情報に「データは?」とひと言だけ付け加えればよい。これまで「データ」と呼ばれていたものが誰かの仮説を裏付ける都合のよい数字だったことに気づければなおよい。データの見え方と解釈によって複数出てくる仮説からその時点での最適解を選ぶのが本来のマーケティング。しかし観光の分野ではまだまだ浅い気がしてならない。

 いま日本に来ている外国人は間違いなく旅行好きで、日本に来ることを待ち焦がれ、いち早く得られた情報を手にして実際に飛んできてくれた、とても貴重なお客さまだ。彼らの旅に至った気持ちや行動をデータで徹底的に理解し分析することは、この先また加速度的に増える訪日外国人を糧にできるかどうかにつながる。いましかできないことはたくさんある。なのにどうだろう。ハッピをまとい小旗を振って……すでにあの頃のテンプレに戻ったりしてはいないだろうか。

高橋敦司●ジェイアール東日本企画 常務取締役チーフ・デジタル・オフィサー。1989年、東日本旅客鉄道(JR東日本)入社。本社営業部旅行業課長、千葉支社営業部長等を歴任後、2009年びゅうトラベルサービス社長。13年JR東日本営業部次長、15年同担当部長を経て、17年6月から現職。

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