『まちをあるく、瀬戸でつながる』 地域に本気で寄り添ってこそ
2022.05.30 00:00

瀬戸といえば「瀬戸物」。いまも多くの窯元を擁する街……といっても、正直見どころといわれても思いつかないし、観光地のイメージは薄い。
「瀬戸は千年以上もやきものをつくり続けているまちです。何をつくっているのか?と聞かれれば、陶磁器でできるものなら、なんでも」(はじめに)
本書は瀬戸出身のライターが4年前にUターンし、あらためて気づいた瀬戸の魅力、愛すべき人々やお勧めスポットをエッセイと写真でつづった1冊だ。
と、紹介するとよくある感じだが、完成までの道筋はよくある感じではない。著者の夫・南慎太郎氏は同じUターン組で、宿・喫茶「ますきち」の運営者。築140年の古民家をクラウドファンディングやボランティアの手を借りて改装した建物ではさまざまなイベントも実施。コロナ禍においては、窯元や飲食店を巡る「せとひとめぐり」を企画し、サントリー地域文化賞・特別賞を受賞した。さらなる取り組みとして、長期滞在も可能にすべく、ますきちの旅館業許可を取得。客室を増やし、瀬戸の案内本も出版しよう、とはいえ出版社が見つからないので、なら自分たちで出版社をつくろう……というわけで、山ほどの目標を達成すべく昨年2度目のクラウドファンディングを実施し、300万円超の支援を集めた。
ものを作ることへの共感を得やすい土壌があること、出身地であることなどプラス要素もあったろうが、やっぱりお二人の腰を据えた地元への寄り添いがあってこその結果だと思う。地域活性化、DMOなど業界では耳慣れた言葉だけれども、やっぱり基本はいかに本気か、ってことなのだと思わされる。ちなみに本書の販売目標は3000部だそう。瀬戸の良さがじんわり伝わる良いガイド本、皆さまもぜひ応援を。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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