『たちどまって考える』 結論よりも大切なこと
2021.02.15 00:00

本稿執筆中の1月末現在、わが宿は春に続き2度目の休業中である。初回の休業では別邸の増築もあり、それなりに忙しかったが、今回はそもそも京都がオフシーズンだし、ヒマである。積読本を消化したり、いまさらアニメ「進撃の巨人」をまとめ視聴したり。いやあ、リヴァイかっこいいっすね!
……話が逸れた。
人間、時間ができるといろいろなことを考えはじめる。ニュースを見て腹が立つこともあるし、仕事に急ブレーキがかかった理不尽に戸惑うし、家族との関係もあらためて考える。不安だが、こんな「考える」時間がすごく貴重に思えるときもある。本書はそんな考えるための1冊だ。
著者は『テルマエ・ロマエ』の作者ヤマザキマリ。各国を旅してイタリアに定住したその目線はちょっと外国人ぽくもあり、エッセイストとしても人気だ。コロナ禍の現在は家族と離れ日本で暮らす彼女が、全人類が直面する危機のなかで考えたことをつづっている。
イタリア人と日本人のパンデミックへの姿勢の違い。なぜイタリア人がマスクをしたがらないか、という考察。災害に対して、過去を思う、過去を知っておくことの大切さ。日本に西欧式の民主主義は向いていないのではないか、と感じたこと。簡単には旅に行けなくなった現在、体験の重みやデジタル脳の弱さを感じること……。話題は多岐にわたり、どれも身近でわかりやすく、語りかけるような口調が温かい。
いいなと思うのは、さまざまな問題や疑問を提示しながら、明確な結論に達しない項目もあることだ。必要なのは考えることであって、結論や新たな疑問は自分で考えて自分の道を見つけて。そんな風に励まされているようにも感じる、余韻のある読後感だった。

山田静●女子旅を元気にしたいと1999年に結成した「ひとり旅活性化委員会」主宰。旅の編集者・ライターとして、『決定版女ひとり旅読本』『女子バンコク』(双葉社)など企画編集多数。最新刊に『旅の賢人たちがつくった 女子ひとり海外旅行最強ナビ』(辰巳出版)。京都の小さな旅館「京町家 楽遊 堀川五条」「京町家 楽遊 仏光寺東町」の運営も担当。
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