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概要

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TRAVEL JOURNAL 2014.6.16 99さいみょう・ひとし●JR東日本入社後、鉄道営業、旅行業、旅客サービス業務を中心に管理部門を歴任。この間JNTOシドニー事務所、初代JR 東日本訪日旅行手配センター所長。前職は本社観光戦略室長。12年6月から現職。JRグループニューヨーク事務所長文・最明仁ツーリズムのヒント観光の存在感を高める年前の1964年は東京五輪開催、海外渡航自由化、JNTO 設立、東海道新幹線開通と、観光産業にとって大きな節目となった年でした。私が勤務するJR グループニューヨーク事務所も開設が1964年1月、今年50周年を迎えました。もともと当所は東海道新幹線建設にあたり世界銀行から借款を受けるため、たびたび米国を訪れた当時の国鉄幹部が外国での交通関係諸情報の調査・収集、国鉄に関する旅行案内、広報活動の必要性を強く認識したことに端を発したと言われています。 「日本国有鉄道百年史」(日本国有鉄道刊)によると、国鉄の前身である鉄道省(院)は1912年(明治45年)、外客を接遇する民間団体「喜賓会」に日本郵船や帝国ホテルなどと援助を行う形でジャパン・ツーリスト・ビューロー(現JTB)を創立したとされており、以後第二次大戦まで外客誘致宣伝に積極的にかかわった記録が残っています。外客誘致に対する日本国内での官民挙げての機運も盛り上がったとされます。昭和に入ると鉄道省に外局として国際観光局が設置され、さらに官民共同出資による外客誘致専門機関の国際観光協会が設立、海外にもニューヨークを皮切りにロサンゼルス、パリ、ロンドンなど全8カ所に宣伝事務所が設置されました(その後、戦争とともにすべて廃止)。 戦後荒廃した国土復興のため、なかなか観光に力を入れられなかったようですが、朝鮮戦争特需や東京五輪景気に押され、外貨獲得による国際収支改善の目的もあり、国鉄としても外客誘致への取り組み強化の必要性を認識していたとのことです。 ところが、日本の産業が発展し工業製品の輸出が増えてくると欧米との経済摩擦が生じ、莫大な貿易黒字に対する批判をかわすために、いつの間にか旅行収支の赤字を是とする風潮が官民双方から生まれてきました。私がJNTO に出向していた1991 ~94年当時、政府関係者からも同様の発言をよく聞いたものです。海外渡航自由化以降、日本で外客誘致の重要性があまり叫ばれなくなったのは皮肉です。国内の旅行需要が旺盛になり、民間事業者も外客誘致の必要性を感じなくなっていったのでしょう。観光の比重が高いのは近代化が遅れた国だとの誤った認識もあったかもしれません。 ニューヨーク市など観光に力を入れる米国の都市では、市民への啓蒙も積極的です。観光の経済効果を具体的な数値や金額で必ず発表します。特に観光収入や雇用者数には多くの人が敏感に反応します。観光とは直接かかわりない産業でも活動の成果として、必ず観光への貢献を口にします。 日本の貿易収支が赤字基調となった現在、訪日外国人旅行者誘致を一層促進することで、将来国際観光収支を黒字にするとの大きな目標を掲げ、日本経済の中で観光の存在感をより高めていくことが求められていると思います。505月20日にワシントンDCで開催された北陸セミナー。官民共同の誘致活動にゴールはない(次回は7月7日号に掲載します)vol.028COLUMN